風立ちぬ

そろそろ見たい人はみんな見たかな、テレビ待ちやレンタル待ちの人には多少のネタバレがあってもいいかな、と思うので何か書く。


シベリアの偽善について。堀越二郎は仕事帰りに洋菓子のシベリアを買ってそばに居る貧しい子供に与えようとするが子供はおびえて逃げる。そのことを同僚に話すと「偽善だな」と一刀両断に斬られる。これは俺自身も似たような体験から胆を冷やしたが、どういうことかというと飛行機を作るというような仕事は当時なら帝国のお金、つまりは税金でまかなわれており、広く一般市民を支配下に置きながらその中から自らの近くにいる数人に恩寵を与えて良い事をしたという得心に浸るのは公平性や社会性に欠けるという見方だろう。この映画を観たすぐあとの参院選は僕は日本共産党に票を投じた。それが真の善意だと思ったからだ。しかし、次は自民党にと思っている。善意で飯は食って行けないから。


妄想癖の二郎。俺も妄想癖があって仕事が忙しい時でもデスクでぼっと妄想に浸ってしばらくして我に返るというようなことがある。クルマの運転中になると、特に高速道路などあぶないので医者から運転をストップさせられているレベル。作中の二郎の妄想シーンにこう言う人が別の時代にもいたのだなと共感する。完全に主観なので感想としての客観性は置いておく。


いがぐり頭の上官に連れられてなされるがまま、しかし着いた先での仕事には真剣に打ち込む二郎。出向だのハケンだのと言われたがコンピュータに携わる仕事だからと言い聞かせて何もかもを置き去りに会社の言いなりにあちこちで働いた、これも自分の経験や主観と重ね合わせて、二郎がタクシーに乗せられるシーンなど気付いたら涙がでていた。


技術者会議で二郎が「鉄砲を積まなければ飛ぶんだがな」といって皆が笑うシーン。本当は笑い事ではないと思うが、戦時中は鉄砲を積むことが本分としてそこに笑いが生じることの恐ろしさと、その技術者が寄り合ってワイワイ意見交換するシーンの無邪気さにこれも気付いたら泣いていた。スクリーンでもいがぐり頭が泣いていた。


どうしてもシーンに対する感想になってしまう。客観的にシーン遷移を組み立てて理路整然と話すには映画を何度か見ないとできない。映画評論家で何を見てもすぐに話の筋を組み立てる人と話したことがあるけれど、あれ面白く見れているんだろうかな。まあ、邪推ってものか。面白いんだろう。俺は面白かった。


あと話の核心には触れなかったのでネタバレ的な心配はあんまりいらんね。


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