ギターは資本


俺はサラリーマンをしながら何とか毎日の仕事から逃れたいと考えていた。年金生活の60歳になる前に頭がパソコン用語でパンクしておかしくなるんじゃないとか思った。そしてとにかく本業以外のカネ稼ぎの方法は無いか、節約術は無いか探し求めた。最初に思いついたのはIT業なのでワープロ打ち込みの内職や自宅請け負い案件だった。自分でゲームを作ってダウンロード販売なども考えたが、そのころは独りでゲームを丸々作る知識も技術も無かった。


様々の紆余曲折を経て、あるとき音楽にいくら使っているか考えた。そのときはビジネス本に飽きてマルクス資本論などを読み、文系から「今さら資本論かよ」と笑われた。資本論は簡単にいうと工場設備などは初期費用は必要だがモノの生産で日々の売上げを伸ばしやがてその積み重ねが初期投資を上回るということが論旨で、今では当たり前だが学んだ所で元手が無いと初期投資を出来ないのが文系の悲しい性だと思っている。


音楽は小学校のリコーダーからこっち何も勉強していないが、歌は好きだし音楽雑誌を読むと若手のクリエイターはみな幼い頃からクラシックに親しみどうたらこうたらプロフィールに書かれている。クラシックはiPodに入れて聴いていた。ワープロの内職はつまらないが、自分でギターを弾いて歌えばカラオケ代も浮くし上手になったらカセットテープに録ってデビューでもできないかと(現実離れしているが、俺はそういう性格)とにかくギターの入門セットを買った。教室には通わないでDVDを見て練習した。モチロン笑われた。


それで大成功を収めたからお前もやれ、という括りではない。違う分野で結局は働きながらギターを弾いたが、そういうことの積み重ねが気付いたら大きな貯金になっていた、ということだ。結局は音楽を資本にはせず、ギターを学ぶ事でプロの演奏がレコードで聴ける事がどれほど安上がりで、それゆえ普通は自分で演奏などせずレコードをレンタルしてダビングすることは理解出来た。そして、そうするだけの経済的余裕を持って、アーティストに対する憧れのようなものは演奏の苦労に対するねぎらいの気持ちに変わって、寄付のような心境でレコードを買う。


そして、退屈な時はギターを抱えて下手な歌を歌う。エレキギターなので電気代はかかるが、それでもギターは資本だという気持ちに変わりはない。