ウチは築100年くらいの古い家で昔は広い庭があった。
庭は5年くらい前かな、10棟建てのレオパレスになって家賃収入がちょっとあるんだけど、家の中の遊び場が無くなって「南の倉」と爺さんの代から言われている倉庫の前の小道でタバコを吸ったりしている。
そうすると、この季節は時々蜂が飛んでくる。それもミツバチのようなかわいい蜂ではなくアシナガバチやクマンバチやスズメバチのような大きい蜂が。
アシナガバチは市街地でも巣を作るとニュースで見たことがあって、ウチにも3年ほど前に巣を作ったことがあって、その時は近寄らないようにして冬になって蜂が居なくなってから巣を壊したんだけど、庭木もないのにどこから蜂が来るんだろうと不思議だった。
そうして、よく観察していると南の倉の二階の窓に六角に組んだの針金の格子が施されている。南の倉も家と同じく築100年ほどだと思われる。被害妄想かもだけど、お金持ちの家に倉を建てる時に職人さんが嫌がらせとして蜂が寄ってくる六角の格子を付けたんじゃないのかなって推理した。
虫の目は白黒に世界が見えていて、遠近感もおそらく人間とは違う。虫から見て六角の針金は巣のように見えてその習性から近寄りたくなり、そこに人が近づくと守ろうとして攻撃する。だから格子の針金を違う組み方にしてもらえば蜂が来なくなりそうだと考えて、倉の補修の時に親父に頼んでみたが「そうかなあ?」と訝しげにして放って置かれた。だいたい、家では俺の話を親父が聞くことはない。全てうわごとだと思っている。
まあ、自分の代になれば格子を変えようとは思っているが、蜂も時々来るだけなので考えも邪推かもしれない。毎年そこに巣を作るってわけでもないからね。でも、そもそも庭木もないのに蜂が来ること自体は今も不思議だ。六角の格子は昔の忍術だったのではないだろうか。