ドイツの会社が日本に土地を買って工場を建てている

高校まで進学校でフリーターをしてから専門学校で資格とって中退寸前のギリギリ卒業からアイティー業界勤務。この経歴だけでは何が起こっているかわからないと思うんですよね。会社が書類選考だけだったら「ちょっと遊んでたんやね」くらいで作品選考のある会社から転職を何度かしてるんですが、有限会社フリーライフ所属と言ってもフリーライフに机と椅子があるわけでなく、先ず竹山社長の所に面接に行って「事情はわかったから大阪市中央区のパートナーという会社から仕事の依頼が来ていて行って欲しい」と言われるままに「給料がいくらとか何時からとか何も取り決めとか無いんですか?」聞き返すと「それはお客様次第でまだ決められないから」と、ウチは自営業で親父と喧嘩して外で働くと出てきた手前で引っ込みがつかないから、大阪市中央区のパートナーまで行くと「これから谷町六丁目のユニオンシステムというところでエムエフシーというのが分かる人を探しておられるので、行ってみましょう」「エムエフシーなら本を一冊読んで知っています」「作品とかありますか?」「面接いつですか?」「三日後くらいでと聞いていますが」から、部屋で3日かかりっきりでウインドウズ付属の「メモ帳」と「ペイント」にそっくりなアプリをビジュアルシープラプラというソフトで作って持っていったんですね。
「あー、まあまあ良く出来てるね、そんでこのソフトの売りは何なの?」「売り・・・んー?アンドュが5回くらい出来ます」「うわっすごい!アンデューか!どうやってんの?」「描画をバッファに保存して、画面にはバッファの履歴から操作をなぞって表示しています」「よし、じゃあ明日から来れる?」「あ・・・明日からですか?俺まだ給料がいくらとか何も約束してないんですけど」パートナーの山本さんが急いで割って入って「まあまあまあ、ミヤザワさん、そのへんはあとでゆっくり・・・」と何故かさっきより低頭平身。
それから月給17万で3ヶ月の試用期間という条件で親父と喧嘩した手前、そのまま働くことにした。そっから3年間ユニオンシステムに勤めることになる。最初のうちは何の会社で社会の中でどういう役割を持ってお金が巡っているかとか、サッパリ分からないまま西田主任の元で「このプログラムをこういう風にしたい」と頼まれるままにプログラムに没頭していた。
そんな風に事態が急転しながらも、フリーター時代からの悪友とゲーセンでストリートファイターで遊んでいた。みんな仕事なんて無くてどうやってゲームするお金を稼いでいるのか不思議な奴らだったが、キャバクラに勤めている彼女からお小遣いをもらったり、何か短期のバイトでもしてすぐやめたりしていたのだろう。そいつらの中から突然「システムエンジニアをしている」とか「大学を出ている」とか吹聴する人が現れ始めたのは、恐らく俺が不用心にもメシに誘われて「最近なにやってんの?」と言われたら明け透けにシステムエンジニアに成ったことを話してしまったからだろう。そのくらいまでなら、まあ良くある話だったろう。
しかし、ユニオンシステムというだれも知らないような会社が勤務先でなく、徐々に富士通とかキャノンとか誰でも知っている会社のシステム部門に転属することになって、給料も最初は17万が専門卒として相場かなと竹山社長にいくら欲しいと言われて控えめに答えていたのが「派遣社員って随分と中抜きされているらしい」という噂話を耳にして「もっと下さいよぉ」とごねる度に「あと2万くらいでいい?」となって、そのうちに俺の給料はとても「普通のサラリーマン」から遊び人が想像する額より大きくなっていく。
それでもゲーセンでストリートファイターをしているのは相変わらずで、軍資金が大きくなり家でゲーム機を持っているのに何故ゲーセンに行くのか会社の人からは不思議がられ、ゲーセンの人からはそんなにカネ持ってんのに何故パチンコやキャバクラではなくゲーセンでストリートファイターなのか不思議がられた。それが終わったのが俺がベーリンガーインゲルハイムに転属になった時だった。
「ドイツの会社に行くことになった」「ハァ?前は谷六とか言ってなかった?」とまあ、ありのままを説明しても遊び仲間は誰も意味が分からない。たぶん地球儀を持ってきてドイツを指さしてみろと言っても何人分かるか怪しいものだ。しかし、会社の中に仲がよい人といってもせいぜいメシを一緒に食うだけで俺のプライベートには干渉はしない。だから、寂しかった。寂しいから、それでもゲーセンに行っていたが、なにせ兵庫の山奥まで転勤になると大阪のマンションからでも通勤だけで往復4時間。遊ぶところも無い。
自然とゲーセンに行けなくなった俺が能勢の駅の本屋で手にとったのが「アルカディア」というゲームセンターの専門誌だった。
その翌日、冗談みたいで誰も信じないだろうが世界貿易センタービルに航空機が突っ込む「あの事件」が起こった。組織の名前は「アルカイダ」とテレビで大きく報じられ、鈍感な俺は「何となくアルカディアと似ているな」と思うだけだった。