「そんなもんパソコンで出来るんやったらタダでせぇ」「やりました」

都会にはシステムエンジニアという仕事がある。「システム」とはソフトで「エンジン」はハードなので、システムエンジニアというのがアイティーヤクザの作ったカッコつけ和製英語なのだが、コンピュータソフトというのは古くは業務用のコンピュータでないと作れないものだったのかもしれない。俺の年くらいになると、パソコンで組み込むのが普通だ。いまどきスマホで何でも出来る。確かにスマホスマホアプリも作ろうと思えば作れるかも知れない。だが、パソコンを使うのが普通だ。
しかし、ソフトウェアというのは単価の高い商品なので、作り方は秘密にして出来上がりを売るのが主流である。そうすると会社の中にもパソコンだけでなく、いかにも民間では真似の出来ない大型のコンピュータがあって、それが必要だと思わせている。思わせているのかどうかは定かではないが、黙ってそれを置いておけば「あんなのあるんや」と想像する人もいる。
それがどうしてパソコンで出来るとダメなのかと言うと、パソコンなら一般の人でもお金を出したら買えてしまうから、凄みが無くなったり、競合製品が出てきたりする可能性があるからだ。田舎に行くとシステムエンジニアという仕事はない。会社もない。パソコンはある家もある。農業と比べてクーラーの効くところでパソコンに打ち込むというのは仕事として見做されにくい。「パソコンで出来るんやったらタダでせぇ!」というような言い様だ。
家でももちろんそうである。お勤めに出ていると言っても「パソコン関係」「楽そう」という親族の中で唯一銀行員の従兄だけは「そんなしんどい業界に何故頑張る?」と酒の席でほぐしてくれたのは銀行員がアイティーの懐具合を知っているからだろうが、パソコンと言えばワード・エクセルということくらいは知っている姉や親父などからしたら、インストールセットアップや書類作成等の軽作業をするバイトみたいなものという認識だろう。それを聞きかじった農家の親戚などの想像はパソコンで書類を作ってプリンターから出してその文言で権利収入か何かを得る金貸しとか何かの悪い仕事というイメージなのだ。
そこまで追い込まれて、もう言葉で何を説明しても無駄、映画サマーウォーズ侘助みたいな絶体絶命の状態で、仕方がないから俺は家のパソコンで将棋ベーシックを作成した。メシと風呂と寝床はある。パソコンで出来るならタダでせぇ!というのは都会ではそんなことをしたら家賃が払えずメシも食えず死んでしまうが、田舎でタダというとメシと寝床はタダなので、まあメチャメチャ値切られた損な感覚ではあるが、やってやれた。3ヶ月の缶詰て将棋を作り、また勤めに出て貯金を作って今度は麻雀も作った。
そうしたから、相手方がパソコンで何かすると言ったら役所の人が住民票を出すようにパソコンに何か打ち込んだらプリンターが動いてピーッと書類が出てきて、それで千円とか1万円とか儲かるみたいな想像をしていたことが分かった。3ヶ月も缶詰でやって1円も儲からないと分かると、今度はそれならお勤めに出たほうが儲かるんじゃないか、どうしてそんなことをしたんだと皆に不思議がられて「お前らがタダでせぇ!ゆうからやったったんじゃ!」と声を大にして言う代わりにブログに書いてやる!こんちくしょう!


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