ファイナルファンタジーとドビュッシーとピアノと自動演奏

俺はファミコンゲームボーイの音楽が好きで、ファイナルファンタジーは特にお気に入りのひとつだ。子供の頃に何度も聴いていつでも思い出せる。

俺はピアニストにあこがれを持っていてピアノが弾けるようになりたいと思っていた。

小さなシンセサイザを持っていたが、あるとき一念発起して良いやつを買った。

良いシンセサイザを買った俺は迷わずファイナルファンタジーの曲を練習した。

弾きたい曲は弾けるようになり、ピアノ動画をYouTubeにアップしたりもした。

ファイナルファンタジーのメーカーのスクエニにプログラムを納品する業者に就職した。ひと悶着あって短期間しか働けなかったが、スクエニとビデオ会議の日に風邪で休んでしまい、スタッフロールにも載らなかった。憧れのクリエーター達に会えるのかと思っていたら、ネットで音楽や映像のファイルが送られてくるだけで現場はアルバイトみたいな人ばっかりだった。35歳のときでゲーム業界はラストチャンスと聞いていたし、プログラムのレベル高そうだと思っていたら蓋を開けたら難しい部分の作りは腫れ物を触るように扱って、絵や音楽を入れ替える簡単な作業がメイン。スーファミからスマートフォンに載せ替えるためメニュー画面をコントローラからタップ操作に変える仕事しかさせてもらえなかった。ゲームプログラマの雲の上感はますます増すばかりだったが、そのあとドラクエを開発したチュンソフトの面接にも行って将棋ベーシック改などの作品を見せると「これ見たことあるよ」「そうですか、ボクが作ってネットにアップしたんです」信じていない口調で「ふーん」と言われ落とされた。スクエニのときは何年も前に「ぜんまいハリアー」を経歴書と一緒に送りつけていたが、当時の人事と採用されたときの人事に先に送ったプログラムのことが伝わっているかは分からない。

それで音楽は電子ファイルで受け取るものだと知った俺はファイナルファンタジーの序曲の元ネタとなっているドビュッシーの「夢」をネットで手に入れてシンセサイザの自動演奏に流し込んだ。

そうすると近所の人が「あの部屋から聞こえてくるうるさいピアノが上手になった」という噂をし始めて、ピアニストが住んでいるとかどこの誰だとかいう話になった。

噂がいちばん広まった時に静かな田舎町に俺と似たような服と髪型で女連れで来る見慣れない人が異様に増えた。毎日3〜4組は見る。そのうちのひと組とケンカになって殴って自分の手の甲の骨が折れた。右手の薬指の付け根が陥没して整形外科に行ったのだが「殴ったのか!」「はい」「プロボクサーと言うなら手術してやってもいいぞ」「違います」「違うのか」「はい」「ピアニストと言うなら手術してやろう」「違います」「この大うそつきの大ぼら吹きめ!違うのか!」「はい」「ならそれくらいの障害どうってことないだろう」「ヤブ医者め!」(かくたに整形外科)

ギブスを外してケガが治った頃にはファイナルファンタジーの序曲を弾いてみても弾けなくなっていた。

しかし今日24時間テレビをみて色々の音楽を聞いているとまたピアノが弾きたくなり、少しやっていると外から「小学生みたい」と笑い声が聞こえてきて思い出した。ファイナルファンタジーの序曲を練習したときだって最初はそうだった。

他にも色々と思い出した。指使いのなれない俺はゲームで動く右手の指を主に使って弾こうとしてしまうから、ゲームで鍛えた指だけがよく動くならと100均でタリーカウンターを買ってきてすべての指で順番に1日500回くらいカチカチする練習をした。

それを思い出して右手の薬指で300回くらいカチカチしたら、序曲がそこそこ弾けた。

それで何だっけ、自動演奏でないのを明確にするために電子ピアノでなく実物のアップライトピアノを買ってみようかなと思ったのだが、もうどっちでもいいやと思ってやめた。もっと上手くなってからでも良いような気がするからだ。

まあでも、ピアノでファイナルファンタジーを弾いて電子ピアノの自動演奏でドビュッシーを聴くとなると、ピアノでドビュッシーを聴いてファミコンファイナルファンタジーを聴いているのと完全に交差しているので、個人的にもうどっちがどっちでも良い。

ただ、趣味としてもうちょっとピアノが上手くなったら世界を楽しめそうだとは思う。


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