音楽的価値を提供できていないのが悔しいのよね

中川淳一郎氏はウェブをバカと暇人のものとしたが、それからスマホの普及で様子はずいぶんと変わってきていると思う。本当に多様性が出てきて、有益なウェブ情報は確実に増えている。

俺がネットを始めた頃に有益だと思ったものはゲーム開発でも特にプログラミングに関することだった。やねうらおゲームSDKでゲームを作り、ベクターで売ってみた。残念ながらゲームは売れなかった。高本伸一郎さんのフリーウェアでよく遊んだ。本来は同人制作のコマーシャルなのだろうが、ただで遊べると思ってよろこんだ。そしてコミケに行くオタサーの仲間からソフトが回ってきたが、俺のしんいちさん贔屓よりもみな東方紅魔郷のほうに興味が行ったようで、その流れには逆らえなかった。

ウェブはメールのように直接通信するわけではない。アップローダーがいて、サーバーがあって、ダウンローダーがいる。ダウンロードに課金システムを施して何とか儲けようとする向きはウインドウズ95の頃からあったが、クレジットカードを必要として煩雑さと安全度の問題からあまりうまく行っていなかった。それが、スマホの普及とともに課金を電話料金に上乗せする形でデータをダウンロードする時に有償化する仕組みは爆発的に普及した。

パソコンオタクからケータイに行った人をすべてくまなく知っているわけではないが、お金持ちで損得勘定をあまり気にせず有料ダウンロードで利便性を享受していく人のほうがもしかするとウェブをうまく活用していると言えるかもしれない。ひとりあたりの課金額はソフトやデータの価値と比べて格安だからだ。

だが、俺はちょうどスマホ普及のころに入院していて、仕事をやめて貧乏だったのですっかりその流れに乗り遅れてしまった。プログラマーだったので、何とかアプリを作って配布する側になったら儲かるチャンスなのにと思いながら、AndroidiOSをシミュレートできるハイスペック機に対する投機を逃してしまったのだ。

それも、少し年月が過ぎて引いてみると、同じことを企む人が多すぎて、一見するとブルーオーシャンに見えたアプリ市場というのは開発リソースをふんだんに持っているITベンチャーレッドオーシャンだったのである。

スマホ普及の後に俺はただただウェブの弱者であり、チャンスを逃した後にいわゆる成功者を指をくわえて羨むのみとなった。

しかしまあ、そんなことはアプリ市場の時に身にしみてよく分かっただけの話で、俺にとってアプリ市場がチャンスだったということは特に無く、インターネットとウインドウズ95の普及にあたって既に日本ではソフトバンクのヤフーが水面下で企画立案されていたわけだし、AppStoreやPlayStoreはソフトウェア開発者をタダで競争させるプラットフォームに過ぎない。

同じようなことがSNSでも起こっている。チャットや動画の録画再生技術はデジタル機器の既存技術で、場所を提供して広告料で儲けて、その中でユーザー同士を競わせるプラットフォームで搾取されながら頑張って、勝った人にフォーカスすると羨ましく見える。その下には死屍累々のワナビーさんがいる。

ところで、俺はかなり再生数の少ないギターの弾き語り歌ってみた動画をアップしていて、恥ずかしいから宣伝していなかったのだが、ふとブログで実名と写真を公表したついで、動画サイトへのリンクも公開してみた。

昔からそうなのだが、俺の「歌ってみた」には音楽的な価値は恐らくあまりない。しかし、俺はリスナーとして耳は肥えていて、DJごっこをしていた時には「これ良いね」と好評だった。まあ、流行っているものは俺でなくても当然良いのだが、俺はマイナなものもたくさん聴いて、良いと思ったものを共有するタイプだった。

しかしそれがDJでなく弾き語りでやることで、俺そのものに情報価値はなく、弾こうとしている原曲が良い曲であるという情報だけをもっと上手い人にアッサリ取られてなにか損した気分になるということをしている。

演奏家というのは、演奏技術を磨くのにも時間と労力を費やしているもので「何を弾けばウケるか」を分かっていない人も多い。

そこを上手く組むことが出来たら大きな事が起こるかもとは思っていたが、俺つまり宮澤郷介は全くもって望んだものとは違う黒子のような存在になってしまったのが悔しい。

ウェブの上手な利用法をあらためて考えると、レコードをmp3にエンコードしたデータを著作権を侵害した軽犯罪的にダウンロードして、微罪により見逃される。それってCDをレンタルしてカセットテープにダビングするのと何が違うのか。

「弾いて見せたい」というエゴを満たす意味では、まあ何人か見てくれたわけだから良いっちゃ良いんだよ。ただ、そうしたために横取りされている情報は元来無形の無料のものだけど、俺がそれを体得するのにかけたお金は返ってくることは無いんだよなぁ。

アップロードしてお金を溶かす人と、もらって潤う人がいる。その狭間に表現者としての自我を挟み込み、有名になれる人が羨ましいと思っちゃったら辛いよね。

 

あと、スマホ普及機に俺はスマホが不便でガラケーのが便利と強弁して変人扱いを受けたのだが、正しくは便利だけど何をするにも課金が必要でお金が余計にかかる装置だと思ったんだよね。いまでもアプリには300円くらいでも払わないで何とか出来ないかとか、そんなことばかり考えてしまう。LINEのスタンプなんかもひとつも買ったことがない。ゲームに課金したこともない。

それが自分が配信したもので売れ行きが伸びなくて悩んでいるのと裏腹な気はする。


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