恐らくだが本願は殴り合いのケンカに勝つことなんだ

俺を支配しているのは暴力だ。子供の頃に親父に口喧嘩で勝ったらゲンコツを食らった。

「生意気なガキ」は勉強とか将棋にテレビゲームに夢中だったが、体育はダメだった。

将棋が得意と言っても現在は4級である。俺はこれは苦手の範疇に入れたいと思っていた。なぜなら、テレビゲームの世界ならハイスコア全国1位とかストリートファイターでの大会優勝など、いくつも記録を持っている。

では何故、ゲームの自慢があるのにあまり表に出さないかと言うと、男同士というのは自慢とやきもちの関係で、何か自慢を持っていると目をつけられて何とか弱みを握って相手の自慢を制し、ゆすったり脅したりで反対に恥をかかせてやろうとするからだ。

それは突き詰めると、ケンカになる。「恥をかかすのか!」と怒ってケンカになれば力の強いほうが勝つのだ。そして、そのコンプレックスは俺のからだを大きく育て、生意気なガキの自意識のまま精神があまり成長していない俺は野球選手のような体格で中で子供がロボットを操っているかのような感覚で生きていた。

その中身のチビはゲームで一緒に遊んでくれる仲間を大切に思っていた。仲良く群れているから喧嘩にならない。大柄で力で勝つものもひょろいとは言え数がいると目立ったケンカは仕掛けてこない。そして、そういう見えないバリアで守られた聖域でストリートファイターで決着を付けることでチビの自意識は「ゲーム最強」だった。

だが、現実として俺が勝っているのはチビひょろいグループの中ではガタイの良いほうで怖いからという部分もある。ケンカをしたことがなくて無自覚に偉そうなチビとチビ同士でやっているつもりなのだが、俺は自覚している以上にデカイので、単にチビが虎の威を借る狐状態で、俺が用心棒に見えるから相方が勝つだけの話なのである。

仲間だと思っていたが、違った。単に利用されていたのだと思ってから、しばし孤独になった。その孤独を癒やしてくれるものもまたテレビゲームだった。俺にとってはテレビゲームは大切で、テレビゲームが大したことのないものだと思われたくないからテレビゲームが趣味と公言しながら仕事を頑張ったり、他の特技を磨くことにも力を注げた。

最近になって、その思い込みがふっとほどけた。俺は気づけば力が強く、暴力事件を起こして警察沙汰にもなった。力が強くなっても現実社会での暴力行使は認められないのだが、俺は相手を殴って相手は痛い思いをしながら警察等助けを呼んで慰謝料を請求してきた。だが、俺は拘束されてお金を損したが殴った拳の痛み以上は痛くないのだ。

交番でおまわりさんにしぼられて、家でプレステで遊んでいることを打ち明け、仲良くなった。そんな俺が免許の更新のときに講習室に早く入って待ち時間にケータイで将棋をしていると「早指し4級」と言っておまわりさんが笑う。そのとき指していたのが3分切れの早指しの方でなく10分切れのほうで級位がまだ9級だったから、4級を嘘だと思って笑ったのかもしれない。

だが、ゲームが終わって4級の画面を見ると「なぁ、ミヤザワ。お前将棋が得意でええんちゃうか?」とおまわりさんは言う。

4級としえば、専門学校時代にパソコンを持ったばかりだった俺は学科は良いがワープロの成績がクラスで最下位だった。そして練習して取ったのが4級。学科は街で服を着て歩いていると全く見えないものだが、職場で皆がパソコンに向かっていると打鍵速度は耳でわかる。今ならワープロ1級も狙えるほど速くなったが、そもそもワープロ検定が無くなったしスマホタブレットのフリックのほうが主戦場だろう。4級というのはコンプレックスでしかない。

将棋の4級も同じく特技と言うよりプロを目指したことすら無い、子供の頃に少し勝つと誰にも相手にしてもらえなくなってファミコンの将棋を指し、親父が入院したときに同じ病室に将棋の三段の人がいてお見舞いに行くと指してもらった、中学の将棋部ではボロ負けしてバレーボールの方に行った、などの諦めながら趣味でどこかでやりたい、みたいな気持ちが結びついている。

俺があまり口を利かないのは、周りが気を使って先に良い風に紹介してもらうことに慣れているからだと思う。とかく言わずもがなに慣れている。それがゲーマーの輪だった。

しかし将棋でそうなるには4級ではダメだと思う。そして俺の頑張りのエンジンはゲーマーを仲間だと思うからリーダーだと思っている俺が他の競技で負けるとゲーマーみんながダメな奴らだと思われると思って、意地を張れていた。

それが今日は不思議とそうでなく、純粋に将棋をしていた。盤上には持ち物は何も持ち込めない。子供のときは親に殴り合いで勝てないから盤上に夢中だった。その時と同じ感覚で将棋に臨み、相手が長考していると自分側は頭が働かずタバコを吸ってコーヒーでも飲んでいるかのようにまったりと相手の手を待ち、そして負ける。

負けると悔しくてもう1局指したくなるが、1日3局まで無料で4局目を指すためには月500円の課金が必要だ。俺が3分切れで4級に上がったときは課金して毎日指していた。しかし、だんだんと指さなくなり、課金を辞め、10分切れに乗り換えた。

渡辺明先崎学のニュース記事をネットで読んだ。プロ棋士同士は事前研究で決まる話や将棋指しから鬱になった話。憧れる存在だとは思う。しかしそれは記事作者の文筆の巧みさだろう。

俺も他人を持ち上げるのなら上手く書く自信はある。けど、他人になりすまして自分のことを良く書くという器用なことは出来ないし、自分で自分のことを自慢してもそこまで人の心には響かないだろう。

将棋で負けても、健全さを保てるのはテレビゲームが救いになっているとは思う。テレビゲームというのはそういうものであるべきで、第一線の自慢にすることではない独りの時間を穴埋めするものだ。

書くと楽になった。タイトルを先に書いたのでおかしなところもあるかとは思うが、このまま記録として残しておく。


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