「ウメハラを倒して優勝したかった」の意味が今なら分かる

同じ将棋は二度とは持てない。なんとなく将棋という言葉が頭によぎったが。

将棋というのは思考の勝負でその時々に相手と自分で考え合って駒を進めるものだ。だからいちど将棋が終わって棋譜になって、その棋譜を別の二人で並べてもそれは違う将棋。

そういう意味で、俺はカプエス2の公式全国大会での全力が今から思うと本当にバカな手を打ったと思う箇所があって、それは敗着の瞬間ではなく、中堅同士のひと幕であった。大将戦でもバカなことしちゃったなと半分くらい先の試合の感想戦を頭の中でしながら大将戦をしていたので、大将戦の記憶のほうが薄いのだ。

だから、後になってから海外の大会で勝ったとか、そういう肩書のための既成事実で記憶を上塗りしようにも、対戦それ自体が自分の全力を出なくともアッサリ勝ったりしていると何処かつまらなく、いつまでもあの時の負けが染み付いてぶり返して離れない。それが同じ過ちをしないための脳の機能なのかもしれないが。

それとは少し違うが、カプエス2の公式全国大会の優勝者はヌキである。ヌキというとストZERO2の優勝者でもあるが、東京でウメハラが勝ち始めてからシルバーコレクターとなっていた。東京は東京で強いと思う。人口が多く対戦それ自体が盛んで、強キャラ同士のカードはとてもよく研究されている。しかし目の前に強い人がいて真似れば即座に二番手を取れる環境で、全く違う発想の独創性を持って別の角度から追い抜くような人はいない。

だがそこは、東京よりもネットの時代であった。早い人はヴァンパイアセイヴァー初期からネットの掲示板で攻略情報の交換をしていたようだが、その頃は書き込みの好きな変な人のエゴが強かったようだ。それがストZERO3から東京の負け組が書き込みの住所を暴き出してそのゲーセンに「わからせにいく」みたいな流行りが起こった。

そこで奈良の田舎でひとり遊んでネットに繋いでいる俺のもとにも「わからせ部隊」がやってきたわけだが、返り討ちというほどでもなく俺は「わからされた」と思う部分もあったのだが、東京にしても彼らが思っていたほどの快勝ではなかったようで「一矢報いた」という感じであろうか。

それから、俺のもとに教えを授かりに来る人が現れ、ただ教えるだけでなく俺も聞き好きなので99教えても1でもお返しがあれば自分が1%でも強くなれると考えていた。同じように東京のグループも俺から食らった1本の矢が何だったのか99%と交換に来たのかも知れない。

ストZERO2くらいからゲームを始めた人たちのゲージ効率の合理的な考え方に、心理学とかスポーツ科学とかとにかく雑多に勉強していた俺の持論が本をあまり読まない人に重宝されて、合わさった時にはウメハラより情報量で勝っていた。

実際、カプエス2の公式全国大会でウメハラはベスト8で志郎に敗れている。しかし、それはキャラ差によるもので、ウメハラは完全に騙されていた。情報源を人に頼った聞き伝手とゲーセンでの「勝てる感」で、東京でゲームをしていたウメハラが弱いキャラでやっているところに負けておいて、そのままのキャラで大会に出場させる作戦だった。

優勝したヌキに俺は「やっとだね」と声をかけた。ストIII3rdのときも彼は春麗の扱い方をいちど俺のところまで習いに来ていた。だが、ヌキはこういった「ウメハラに勝って優勝したかった」「まあ先に志郎が倒しちゃったからね」

今思うと、ゲームが楽しかったのはそうじゃないと思うんだ。羽交い締めにして操作できなくして木偶をボコったって、勝ったと言えるかみたいな極論も考えた。

たぶんだけど、ウメハラに勝ちたいんじゃなくウメハラみたいにドラマチックに勝ちたい。

同じ将棋は二度とは指すことができない。ストZERO3のときのウメハラ対ヌキの最強キャラの同キャラ対戦そういうカードで最高の舞台で勝たないと、ヌキの本願は達成されないのだろう。

刻々と変化する時代の中で同じルールで同じ相手とひとつのことを煮詰めるのに夢中になれるのは贅沢で楽しい時間だ。

書いている俺もあの時のヌキのセリフの意味が分かった気になっただけで、自分の中で区切りが付いているストZERO3やヴァンパイアとも新しいゲームであるストIVやストVでなく何故かカプエス2にしこりのようなものが残っている原因がハッキリしない。

恐らくだけど、手続きの複雑化で付けられる相性差が大きく他の格闘ゲームの肝となる駆け引きが無いわけではないが、そこに決着点があるのでなく、もっと別の要因で決まるゲームなんだ。

ただ、勝つためにというだけでなく、色々のシステムで過去のゲームのクロニクル的に各ゲームのチャンピオンでスター戦のようなことが出来るゲームだという夢が乗っているから。

ウメハラがただのキャラ差で負けてしまうようなゲームが勝負の土俵であって良いのかという。引田天功(プリンセスのパパ)が箱に閉じ込められて脱出できずに死んだみたいな後味の悪さがどこかに残っている。

前転キャンセルが全国的に広まる前の公式大会のヌキ対ナカソネが俺の中でのベストバウトだったな。あれならストII系とKOFの融合した新しい格闘ゲームという感じがした。