どういう基準で測るのはかともかく俺が世界一の男になっても田舎住みという現実を

都会で恋愛をしたことがある。しかし俺は田舎町つまり奈良県大和郡山市という人口8万人の大阪京都の郊外に実家があった。俺が知っているのは爺さんの代からで金持ちというか地主で恐らく名字に「宮」が付くので旧貴族なのだろうと今では思っている。しかし、既に度重なる相続での分配と母親の浪費で金持ちと言っても家賃暮らしで働かなくても生計が立つという程度であって一部上場企業役員とか上級公務員とかほど年収があるわけでもない。

だから、都会で出世を目指して日々働くのにどこか疲れた俺は家の財産を当てにして楽な暮らしを求めたが、大阪住みの彼女は東京に憧れていて、近くにスーパーがあって近鉄もJRも通っていて、ショッピングモールもあってと説得しても「田舎はイヤ」という。岸和田育ちだから地方の実情を知らないわけではないと言うか。

最近、通っている病院の先生が女医さんに代わって、看護婦さんも何人か入れ替わったのだが、件の彼女の前の彼女は俺がソフトハウス勤務の時に「どうせ会社にも女の人いるんでしょ」とこぼしたことが何度かあった。確かに1階に事務職がひとりと3階に広報がひとり女性だったが開発部は全員男性で、他の階の人間は滅多に会わず、華々しい広告業界のようにみんなオサレで社内恋愛が複雑化しているようなドラマ的な会社ではなかった。だが、信じてもらえないようだった。

考えると、俺はストリートファイターIIの世界一に憧れていて、その先に結婚を夢見ていた。勝ち取るものだという考えがどこかにあった。北米中部ネブラスカのゲーム大会で勝った時には俺が負かしたアジア系のレミー使いの彼女と北米チャンプの白人系のふっくらした女性を右と左に添えられて記念撮影したが、結婚には至らなかった。

だんだんと考え方が変わってきて、相手の彼女にとっても旦那が世界一になったとして、住処が田舎町でスーパーで並の食材を仕入れ、毎日食事の支度をする生活と比べたら、東京で会社づとめをするほうが旦那がどうであれ、自由に浮気が出来るわけでメリットは結婚よりも多いのだろうなと思うようになったのだ。それで前の彼女が実際には居もしない「会社の女性」に想像上の嫉妬をして、破局したのもなんとなくは分かる。まあ俺も風俗とか行ってたけど。

まあ、ホンマに過疎などの深刻な問題を抱えた地方の人からすると大和郡山は便利な市ではあるのだけれど、東京と比べて田舎だと俺が卑下してしまうのにもそれなりの理由がある。

俺はどこか人間関係が煩わしく、ソフトウェア開発は家でひとりのほうが成果の奪い合いもないし捗るし気も使わなくていいと思うのだが、たまに会社に居た頃が懐かしくなる。それは決してオフィスビルに閉じこもられたいとか毎朝満員電車で通勤したいなんてことではなく、田舎の人間関係と比べて結婚や不倫というほど大げさでない都会の流儀のおやつのような恋愛をまた久しぶりに楽しみたいのだろうなと納得するのであった。


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