アイデンティティは溶け広がる

アイデンティティという言葉が哲学で流行った。
自我同一性と翻訳されたが、自分らしさと柔らかに変化してゆく。
自分らしさが自分らしさとして機能するためには条件がある。
その人の近くに同じ真似をする人が存在しないこと。
同じ真似をする人がいると、特徴は特徴とならない。
幼稚園で言葉を覚えるんが早かった子が話を始める。
すぐに、口まねをする子が現れる。
「あのね、こうたくんがね、おべんとうをとるの」
「あのね、こうたくんがね、おべんとうをとるの」
「ちがうよ、こうたくんにおべんとうをとられたのは、わたし」
「ちがうよ、こうたくんにおべんとうをとられたのは、わたし」
「わたしのいったこと、いわないで」
「わたしのいったこと、いわないで」
言葉をさきに言った子は、泣き出してしまった。
泣き出して、あきらめて黙る女の子がいる。
怒って、殴り掛かって、黙らせる男の子がいる。
真似を始めると、厄介な事が起こるのを、合意する。
その合意の上ではじめて、自分らしさは保たれる。


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