引用

諺と慣用句の話をして、いまひとつ分からないという感想を頂きました。分かるまで説明をするほどの粘性はなくて良いかなと思うんですけど、ひとつ。


すごく大雑把にいうと諺や慣用句は元々は引用から始まっているんです。諺はイディオムで引用はクオテーション。引用というのは言葉を何かの本から借りてくることで、そういえば同じ本を読んだ人には説明しなくても通じるものだと思っている所からそうします。これは同じ本を読んでいないと通じないので時代が違ったりするものには注釈を添えたりするものです。諺と慣用句はその言い回しが示す所が字面と異なる解釈を持つものです。


引用というのは出典が明記されていると示す所に揺らぎが無いものですが、諺や慣用句にもっというと熟語も文字が示す意味と伝えようとしている意図がズレている場合があります。


「簡単」という言葉があります。俺はシャープに勤めていたとき上司が「このぐらいのプログラム簡単だろう」と言った時にブチ切れて反論したことがあります。それはブラウザというソフトを海外の完成品から一部流用する仕事だったので、持ってくるだけならコピーすれば短時間で終わるという事前の会議からの誤解でした。コピーは確かに簡単です。簡単は「やさしい」という意味を指す熟語ですが、簡とは漢字そのものの意味は「きれいにそろっている」という意味を持つ文字です。そして単とは「ひとつ」ということです。「きれいにそろってひとつ」ということで、合わせて「やさしい」に翻訳されているのです。


プログラムというのは命令語を並べていく作業ですが、引用はコンピュータの基本ソフトの恩恵でひとつの操作で短時間で片付きます。しかしプログラムが簡単かと言うと、プログラムそれ自体は大変に複雑なモジュールの組み合わせで、とても一朝一夕に完成するものではないのです。複雑とは簡単の対義語として使われますが、プログラムは複であり、厳密に言うと雑ではないのです。難しいものなのです。


それで俺はコピー作業自体は易しいと言っても問題はありませんが、プログラムが簡単だという前言は撤回する事を求めました。同じシャープの社内の製品でも俺が所属している部署の複合機のソフトは栃木工場の電子辞書などよりずっと遅れているし、それは働く事で是正されていくと信じていたからです。


そういう事が鬱積して、訳の分からない諺の話が出てきたのです。電子辞書は基本ソフトは簡単ですが、コンテンツを電子化するために割かれた労力というのは複合機のソフトの比ではないと考えていました(補足として、現在のシャープの複合機コンビニモデルはたいへん良い製品になったと思います)


電子辞書やワープロソフトによって日本語の文章を書くのは幾分か易しくなりました。それでも小学校の勉強から段階を考えると、まだまだ難しい事には変わりなく、これからもやりがいを持って取り組める事だと思います。簡単になったと言いたいんですけど、簡でも単でもないんですよ。


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