ファンデルワールス力

 19歳の時にゲーセンで溜まっていた仲間のうち、まあ仲間と認められていたかは疑問だが、ゲーセンのゲームではなくマッジクザギャザリングというトレカに誘われた。バイト代が入っていたので何かに使わせようということかもだが、とかくそれを買い始めて雀荘代わりになっている不良グループのひとりの家の離れは親御さんの薬局の裏側の居間であった。

 そこでカップラーメンやレトルトカレーに菓子パンなどがお供え物のように運び込まれ、徹夜麻雀やネオジオにトレカで遊んでいた。そのグループの中での年長者に博打のいろはを教わった。あの頃は麻雀にトレカだったが、その前には競馬にハマったこともあったらしく、そしてこれからパチンコ屋にスロットマシンを置くパチスロなるものが流行るとのことで皆こぞってパチスロに向かう中で俺はひとり「それは何かおかしいのでは」と思ってはぐれた。

 博打打ちの輪にいながら、何か違和感を覚えた俺であったが、年長さんは学校の勉強が何かおかしいと思って博打打ちになったらしく「万有引力って習ったやん、覚えてる?」「覚えてますよ」「アレ、なんでそうやって分かるんやろね。京大に行ったって友達にも聞いたんやけど分からんかった。引力じゃなくてさ、全部反対に反発し合っているって考えても同じとちゃうんかな」「えっ、それは違うでしょう」「なんで?」「なんでっていうか、反発するのと引き合うのじゃ動きが違うでしょう」「君それわかんねんな」「まあ分かるというか」

 そんな風なマクドナルドでのワンシーンを強烈に思い出したのは改訂された化学の参考書で自習していた時だ。試験に出そうという意味ではいかにもな方程式が書いてある。俺は数学はまあまあ出来るつもりだが、その方程式だけではまだ何も示せていないのではと疑った。本を読み比べると少しづつ違う。ただ、国語辞典を使うと、方程式とともに「気体分子は極めて近い距離では反発して、離れると弱い力で引き合う」と国語で示されていた。

 反発力とか言っていた博打打ちはこれを知ってカマをかけたのだろうか、そんなわけないかな、と思いながらタバコを吸ってチョコレートを食った。「なんでか」はもちろん分からないわけだが、真空で分子をふたつだけという実験をしたら性質ももっと分かるかな、と思うとどんな器具を使えばそれが試せるか、それでも重力は効いているわけだから、宇宙ステーションまで運んで理科実験をするのはそういう探究心の先端にあるものなのだろうなと思った。


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