高校で使う地図帳を取り寄せた

 情けない家庭の事情なので詳しくは言えないが、俺は高校時代を地図帳や古語辞典と和英辞書なしで過ごした。地理と世界史を教科書で学んだが、地図帳なしでは分からないことがあり、古文は全滅、和英がないのは英文を読めるようになれば充分という今では教頭になっている当時の英語教師の訳のわからない方針で、そりゃ答えの書かれた本を持っているやつと差がつくのは当然だと思うし、不満もタラタラあるのだが、それでも東大や京大に通っているやつは通っているし、なぜなら本があると自分で勉強できるので取り上げて授業を有り難がらせるみたいのは日本の学校教育の全体方針だったろうと当時は振り返る。インターネットで情報の流通性が上がるのは最初テレビ局が嫌ったのだが、学校にパソコンが普及する前は教育委員会もパソコンやネットを敵視する向きがあったが、今では利用者となっている。

 改定された地図帳を見て気が狂った。情報量が多く、今まで世界史と地理を学習参考書で学び直そうとしてが、地図帳の粒度で挑むとなるともう数年は勉強しなくてはならないというゴールが遠のいて滅入る感覚と、それを我慢できない苛立ちから部屋の壁を蹴って暴れた。

 受験で身につくもののひとつに忍耐力が挙げられる。アメリカのような自己実現のための勉強ではなく、政府や銀行が実質上の共産体制である高卒16万大卒22万という給料制度で新卒から定年まで社畜として勤め切るには受験で忍耐を培わないといけないのだろう。そして多くの親が子供を大学に送り出したいのも給料が多いからだというのが昭和の受験戦争の動機なのだ。

 どうでもいいけど、最近何か演歌の「氷雨」をふと思い出して口ずさむようになった。1977年の歌だから産まれる前である。それでもテレビで見たのだろう。「傘がないわけじゃないけれど」ここに俺の口癖の「ないわけじゃない」と「けれど」が含まれている。そしてちょっとエッチな要素もある。子供の時に言葉を覚える段階で意味もわからず来た演歌から言葉を覚えたので、それを論理に戻す家庭で「傘がないわけじゃない」は「傘がある」そして「だから」と続けると「帰る」になってしまうなと考えた。「傘があるから土砂降りの中を帰る」は日本語なのかどうか。土砂降りの中を傘をさして帰るというべきかなとか。

 しかし忘れてまたふと口ずさむと「もっと酔うほどに飲んであの人を忘れたいから」となんと最後に「から」がある。そう、これが俺の日本語だし「から」は「だから」で逆説的ではあるが、論理的なのだ。

 そう否定されるものでもないと俺は思う。「あの人を忘れたいから傘がないわけじゃないけれどもっと酔うほどに飲んで帰りたくない」としなくてはいけないだろうか。俺は氷雨はあのままで美しいと思う。この無駄なひねくれを解釈するのが俺が高校で主に学んだ国語というやつなのだろうな。つまり忘れたいから酒を飲むために帰りたくないのを外の氷雨のせいにしたいけど傘がないわけじゃないっていうことだと解くんですよね。

 そう思うと、俺も地図帳が無かったけど自分で買うカネが無かったわけじゃないし探す努力もしなくて、テレビゲームや外食にお金を使ったということなんですよ。そしてゲームや外食は学生からお金を取り上げて勉強の邪魔をするわけにあるわけではなく、楽しむためにあって勉強ではなく生徒のうちからそういうことにお金を使うのは忍耐不足というか向学心の不足という自己責任論で考えなくては合格は遠い。

 つまり「良い学校行っている」と外から思われていることにしか俺の高校生活には意味はなく、勉強して志望の大学行くヤツは自分で小遣いを本にして勉強しているんですよね。そして学校の図書館で勉強して受かった奴もいる。同じ学校の中で過ごして、どういうやつがどういう進路になったのか共同生活の中で観察できたのは収穫だと今では思うんです。

 

補記:間違っていたところを訂正したいです。

 「氷雨のせいにしたいけど傘がないわけじゃない」ではなく「傘はあるけど氷雨のせいにしたい」が正解かな。

 「詩歌を論理にするのは違う」という論理もまたあるらしいです。文章ではなく受け手の補完によってそれぞれの主観に沿った解釈が出来るように語と語を結ぶ句を無くしたものが詩だから、受け手の解釈は何を書いても正解とするって方針に沿って自己流の解釈をどんどん書く癖がついた。ただ、コミュニケーションとして出てくる語の解釈に作為はあるわけで。解釈を文章で述べるのではなく返事が書けたら素敵だなとは思っている。

 氷雨の返事には何が良いかな。男なら河島英五の「酒と泪と男と女」で女なら森高千里の「飲もう!」を返したいところ。だけど傘があるなら斉藤和義の「空には星が綺麗」も良いんじゃないか、雨上がって帰るっていうね。もっとひねった大人の返しも覚えたいなぁ。

 高校の地図帳って何よ?というと学校によっても違うけど俺が買ったのはコレな。

 とりあえず何から手をつけて良いか分からずに「ごらんあれが竜飛岬北のはずれと」青森県の北西部に竜飛岬があるところまでは分かった。演歌に出てくる場所くらいは全部分からないとね!(今まで分からずに44歳まで来たというのか!)(そうです)

 


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