モンテによくおるブライアン

部屋を片付けたら鉄拳5が出てきた。

自分のことを例えるのはおこがましいかもだが、将棋の先崎学先生は趣味で麻雀をされるそうで、麻雀仲間の間では先崎先生が麻雀で勝つと「先ちゃんは将棋で勝っているんだから麻雀くらい負けて丁度いいんだよ」と諭されるとコラムか何かで読んだことがある。

自分の場合は将棋のプロではないけどプログラマーという本業があって、会社勤めをしていてゲームセンターで負けていた。店や相手を選べば勝てるのだけれど、会社勤めのお給料があると今で言うプロゲーマー的な最高の相手と一緒に遊ぶことで自分を高めたいって欲求があったのかな。プレステも持ってるけど会社帰りには梅田のモンテカルロでゲームをしていた。なんばのアビオンでは相手として物足らず、梅田に行っていたのは奈良や東大阪とつながるなんばエリアより京都と兵庫につながる梅田エリアのほうが人の往来が多く、ゲームセンターの料金としてはなんばより安い1回50円なんだけど対戦台で乱入してくる相手のレベルが大阪で一番高くてゲーム料金は高くつく。

後から知ったことだけど雀荘でも梅田エリアは高級店のような店構えでも場代が案外安くてその代わりに相手が強い。高く付くわけだ。

そんで何だっけ。そう、先崎先生の話の続きだ。悪友に絡まれているということなんだろうな。棋界にいたら後輩や弟子や女流棋士さんに記者やファンの方々に囲まれている先崎先生が雀荘でお金を取られているというのはどういう理由か察することは出来ないけど、その麻雀の相手とて将棋では敵わないことを分かりながらも麻雀で先崎先生から小遣いを巻き上げているわけだ。

俺の場合は会社員でゲームセンターにたむろする人に会社員など滅多におらず、会社って何するのどうすりゃお金もらえるのという疑問を抱きつつも、そんなことを知ろうとするよりとりあえずゲームで勝てば50円ずつ儲かるんだから一日中でもゲームをやってどうにか勝とうとしていたんだろう。

とかく、50円が目当てだったことは間違いなく、そうでない人は自分と同じく50円を取られてどこからか稼いできている人なんだ。先崎先生の話を持ち出すまでもなく、麻雀に誘われるのは将棋で勝ち目がないからでなく、将棋で賞金などをたくさん稼いでいることが分かっているからだよね。持ってるって。

ストIII3rdで勝つようになるとゲームセンターでストIII3rdに付き合ってくれる人は減り、カプエス2で勝つとカプエス2に付き合ってくれる人は減り、昔の仲間から古いゲームに誘われたり、「ストIIIで有名なカーメンさんですよね。鉄拳相手してもらえませんか」などと、いつのまにかバーチャや鉄拳やギルティなど色々のゲームに誘われて、もう自分が何に付き合っているのかサッパリ分からなくなっていた。

少なくともモンテにたまっていた人は俺が50円を入れるからこちらがどんなに強くなろうとそれに勝ちさえすれば50円は儲かると、互いの動機は全く違えど高みを目指し合っていて、自分としてはサラリーマンは生活するための仮の姿でゲームが主戦場だったんだ。

だけど、部屋には鉄拳5がある。これはストリートファイターなどのカプコン系ではなくバーチャや鉄拳に誘われると似ていても違うので負けないように買って家で練習していた時期があったことの証拠でもある。

「カーメン?ああ、モンテによくおるブライアンやろ?」

誰かのひそひそ話が聞こえたことを今でも覚えている。違うから。俺、鉄拳勢じゃないから。ブライアンしかもサブキャラだから。だけど、鉄拳してる人からはそういう人だと思われるくらい鉄拳にものめったんだなと、今更になって思うのです。

部屋を片付けたら出てきた鉄拳5はとりあえず本棚の本の間に挟んでおいた。


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