会社勤めを辞めてもう6年が経つ。会社員の頃から無名のブロガーではあるが、会社勤めを辞めてから暇が多く何かとネットで活動していて、そして身バレというかフリーウェアの入金手続きで契約上本人名義を明かす必要があって過ちとしてネットに晒した個人情報を隠そうにも、隠すと収入源をひとつ失うというジレンマから、実名で堂々とモノを書き続けることにしたのだ。しかし、この直近6年に関して引きこもりのような生活で、そこを見ている人に40代まで会社に勤めあげたことを知る人も少なくなった。
もともと、会社というのは社会全体から見ると隠された密室なのである。そこに入るものも周囲に対して守秘を行っており、会社員であることが人から知られないのも当然だと言えばそうであるが、定時勤務でスーツの場合に毎日スーツを着て朝の電車に乗っていたら学生さんやお年寄りから見て「会社の人なのかな」と思う程度であろう。その程度には俺も会社員らしかったわけではある。
ところで、何故に守秘されている会社に対して会社と言えば漠然としたイメージがあるのかというと、ひとえに成年向けのマンガ雑誌の会社風景があると思う。「美味しんぼ」を子供の頃に母親の実家の病気の「タツ兄さん」の部屋で寝転がって読んだ。
自分もその年になるとモーニングなど取ってみて「課長島耕作」とか「山口六平太」とかで、まあ会社というと直方体のコンクリートのビルの一室でガラス窓があり長方形の長机に椅子が並んでおり、書類やオフィス文具が整然とあるいは雑然と並べられており、座っている人や立っている人でごった返して電話やパソコンが置いてある、そういう風景だ。何をしているか、というところに少し踏み込んだマンガもあるが、書面上で進んでいるその書面の内容ではなく、中にいる人の目線で絵を描いて、オン(勤務)とオフ(プライベート)を切り取った物語の飾りとしての会社風景なのだ。
だからして会社員以外が知っているその会社風景に則っているかという所で、大阪なら南ではなく中央区の谷六より北くらいのオフィスビルが並ぶあたりにスーツを着て消えていくとまあ会社員なのである(実際には派遣プログラマーではあるが)
当然、仕事によっては兵庫の山奥に行ったり家から近い奈良シャープの工場にも行ったりしたのだが、シャープに行くと誰しもが「シャープに勤めている」と思うだろう。山奥の研究所などに行くと、もはや近隣住民及び人気のない通勤電車は山奥の寂れたところに着く前にほとんどの人を降ろしているので不審者そのものである。登山服でも着るのならハイキングかもだが、スーツを着て山の中に消えていくのだから。
そして当然シャープにもスーツで行くと、工場の中では事務棟勤務だと内部的にも思われるのだが、繰り返すとその実は派遣プログラマーの客先(派遣会社から見たらシャープ株式会社がお客さんでコンピュータソフトを買う代わりに人を雇って工場内で組み込み作業を依頼する)常駐となる。カッコの中があまりに長いのでもういちど短くすると客先常駐だ。
まあでもこの形態自体が歴史をたどるとCSKあたりが出所で、コンピュータ自体はノイマンから始まりどうなって富士通になったかは詳しく知らない部分もあるが、商習慣的に無形とは言わないもののメモリの中身であるデータを売買するのが難しい局面で技術者を派遣して現場でプログラムを組み込んだりプログラム以外のデータでも運搬屋に報酬の形で支払われて、そのブツは媒体であり、データを買うのではなく移送手数料を払うような形になっているのであろうな。技術の進歩と法整備の遅れでそれが分かるとどのように商取引が行われているか分かって商売になるのだが、その商取引の現物であるプログラムやデータというものが分からない人からしたら何を売買しているのかも分からない。かなり信用取引に近い格好となるのだ。
それでも出発点はいつも大和郡山市のこの自宅で自営業であるわけで、親父の店である文具事務機ミヤザワが繁盛しているのか、息子である俺が派遣プログラマとして出稼ぎに行って取ってきたカネであるのかは、休日に家から出かけて買い物をする姿を見るときには分からないものなのである。
俺が会社員時代に稼いだお金は銀行預金であったり、ゲーム機やソフトになったり、無数の書籍であったり、ギターやシンセの楽器であったっり、はたまた株式であたりするのだが、ゲーム屋から見て金持ちのボンちゃんが家から金を取って来て高いゲーム機を買ったという風に見て取った時、それが俺が出稼ぎで得たカネであると見て取るかどうかというと、そうは思わないかもしれない。家の修理に大工さんが来て、俺の部屋を見たときにゲーム機や楽器や本が並んでいると、金持ちの家のボンちゃんがお父さんにたくさん買ってもらって文具屋さんって儲かるんだなと思ってしまうかもしれない。
そしてネットを介してこのブログを見た人の一部は俺が20代30代と出稼ぎで貯めたカネをアマゾンのアフィリエイトが月に幾らと実際よりもとんでもなく儲かっていると想像するような事案だってあるし、それは風とともに消える噂話ではなくネット掲示板のデマとなたときデータ通信として実体を持つ。
先にも書いたが退職して6年が経つ。移り変わりの激しい業界なので、もう派遣とかCSKというその業態がこれまで通り続いているかも今となっては知る由もない。
ただ、俺の主観で見てきた世界を遅まきに書き記すことくらいはしておこうと思った。