今の奈良学園ってどんなところなんだろうね

 奈良学園に通っていた頃は将来があると思ってチヤホヤされたもんです。

 しかし、大学に落ちて専門学校に通っていた時は調子に乗って金髪にブリーチして「本当は青にしたかった」とか「七色に髪を染めてみたい」とか、そんなでした。

 そんな奴がいつの間にか黒髪のセンター分けでスーツ着て通商産業省(現経済産業省)の機関に内定しているわけで、同一人物だと知っている人などあまりいないです。

 それから転職して、転職したすぐはバリバリでした。関西にはIT企業というものがなく、情報通信というとメーカーの下請けでC言語ができるというのが重宝されたのです。C++も出来ました。

 しかし上位メーカーはすでに中国やインドにソフト開発の拠点を移しており、ソフトの世界で出来るようになって出世すると思っていた俺は「中国に行かないか」と誘われ、アメリカに行けるものとばかり思っていたので、断ると仕事は減りました。

 それから飲んだくれになり、酒場でタクシー代を残して帰ろうとすると酒場の兄ちゃんが「クルマで送るからもう一杯だけウチで飲んでくれないか」と言いました。

 クルマで家のそばまで送ってもらうと校区を知っていたか「にいちゃん郡中か?」と言いました。いちどは正直に「奈良学園です」と言ったものの「そんなええとこ出てるお坊ちゃんがこんなところで飲んでるわけないやろ」「いろいろあって」「郡中やろ?」だんだん酒が回って「郡中やったら友達いっぱいおったやろか」「郡中やな」

 奈良学園を出ているというのは会社勤めをする中で「どうして大学を出ていないのにこんなに生産性が高いのか」と問われた時に今なら賃金に見合った労働として手を抜くことを知らずがむしゃらにやるバカだったから、ですむ話なのだが「こいつ高校ええとこ出とるんや」「奈良学園ゆうてな、みんな東大京大いっきょんねん」「ほう、奈良学園か、面白そうだな」

 それから高校の後輩がといってもゲーセン通いの組だが、同学年でふたりセットで淀川区の会社に内定が決まった。さらに奈良学園高校から将棋の学生大会の好成績が出て青田買いとばかりに高校在籍中から企業が生徒に注目するようになった。

 カネの集まった高校は都市部の登美ヶ丘に移転した。幼稚園から大学まであるらしい。俺の通っていた頃には中高が奈良の矢田の山奥にあり、大学は奈良産業大学という名前で三郷のこれまた山奥にあったらしいが行ったことは無い。

 近所に新しい酒屋が出来て、そこの店主が親しげに挨拶に来てくれた「郡中やろ?俺もやねん」それから数年俺は郡中卒として暮らしていたのだが、昨日酒を飲んで「校区は郡中なんやけど・・・」「校区?」「此奴ホンマは奈良学園出とんねん」「えっ!」

 うそがうそであると正直に打ち明けることはうそである、という論理で俺はまたうそつきになった。だが、酒屋でのはなしはだいたいみんなうそだと俺は思う。

 酒屋の仕事は見るからに大変そうであり、会社勤めでスーツを着て学歴を言うとハハーッと人が従うという時代でも無いのだろう。町人生活からしたら、学歴なんてのはあまり意味の無いものなのかもしれない。

 酒屋の店主も「奈良学園って幼稚園からエスカレーターやろ?」と聞き返す。時代は変わっている。俺は今日も取り繕うように数学の学習参考書を読む。

 いまの奈良学園ってどんなところだろう。郡中ですと言って出張らない生き方も隠棲には便利だったが、何かやらなきゃなとは思う。その看板に見合う力があるだろうか。


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