有限会社フリーライフ

 ブログを始めたときは暇人だった。サンタックコンピュータ専門学校は単位制で真面目に授業を受ける派とサボる派がいたが、俺は1年目で勉強して国家試験に通り2年目は卒業ギリギリセーフまで計算して授業をサボった。そのあいだゲーセンで遊んで自宅のPCでCGのモデリングにハマり、ホームページ作りを始めた。ホームページと言ってもゲームの攻略を文章で書くという点で創作色が強く、後にアクセスカウンタを稼ぐために毎日更新の日記をつけ始めたものが後にブログとなる(専門学校サボる派には卒業式に来なかったものが入学者の半数くらいいた)

 22歳で無事卒業して、メディックス社に入社する。「大阪でゲーム会社」と濁すと、それだけで多くのものが「カプコンやろ?」と言う。売れている会社以外は皆知らない。半年で社長とケンカ別れになり暇している間に貯金が無くなり有限会社フリーライフに応募した。

 このため、有限会社フリーライフで働いている間も俺はカプコン社に勤めていてゲーセンで遊ぶのは社内業務というか営業活動であって、ゲーセンの店長には「ウチでカプコンのゲーム機を買ってあげている」というお客様意識も半分ある人が何人もいた。

 有限会社フリーライフは「トータルコンピュータサービス」という事でシステム開発保守運用導入支援などをするが、要するに今風に言うと派遣会社である。社員になっても月給は注文した会社に勤めに行ってタイムカードを押した時間に応じて給料が支払われる。何が違うかというと、期間の定めのある従業員として雇われて、仕事が終わるとまた別の会社にお金を稼ぎに行かないといけないのだ。貯金しておくと休んで自由に遊ぶことも出来るが、その間は給料無しである。

 これはコンピュータの普及期に作られた法律によるところが大きいらしいが、売り上げのある会社から楽な仕事をもらえることもあれば、到底やってられないと思うほどきつい納期を迫られることもある。ただし、後から知ったがそのきつい納期は契約によっては守らなくてもよく、ただ会社関係が悪くなるだけであって、会社関係が良くなってその後仕事が続くと言ってもシステムが開発期だと開発部の俺の仕事俺の給料になるが、完成して運用期になるとオペレータや導入の仕事になるのだ。

 そうすると、開発部は開発を長期化して長期に給料をもらうために意図的に工期を長くするというような方策も取られ、社長に気に入られるのは早く作る方だが、お客様目線だと不具合の数やシステムの安定性や運用保守のコストなどが問題になって来る。それ以上はシステム開発の専門的な話になりすぎるので割愛するてか俺だけでは書けない部分もあるが、出社しないと給料がもらえないで、勤め先や人間関係がコロコロ変わるというのはひとり暮らしを始めて到底やっていられない状況となった。

 パソコンというとお金持ちのものであった時代、自宅で何らかのメシが食える人が副業でするから人材派遣業が回っていただけで、それを主業にして独立しようとすると到底やっていられない歩合になり、関係者は「政治が悪い」という結論になった。まあ、人の記憶というかメディアで周知された事というと竹中平蔵叩きのような決着点だ。

 営業活動も社長と自分のふたりでやっていたので、会社が無くなった今、自分が何らかのITスキルを持っていたとして、それを買ってくれる会社を自分で探すとなるとなかなかに難しい。多くの求人は首都圏が中心という情報も入っている。

 結局何だったんだろうというと、俺が周囲に説明不足だったと思うんだ。「会社の仕事だから」とだけ言って家族に話さないと、家族だって何かの悪だくみに巻き込まれているんじゃないかと心配するし、腹いせに飲む打つ買うをやってしまったがため付き合いのあった人にも軽蔑されたこともあったが、それは会社で一括りにしてはいけない問題であって、そのへんも膝を突き合わせて話が出来ないことであった。

 まあ、家族視点で言うと朝会社に行くと出て行って終電で酔っぱらって帰って来た香水のにおいまでするというところを、翌朝また「会社に行く」と言って快く送り出してもらえるのかという簡単な問題に立場を変えて考えることが出来なかった。

 それはゲーセンとか飲み屋の人から見て、定時で上がってスーツを着た若いのが万札をゲーセンで両替して古い分けの分からないゲーム機に全部大枚突っ込んで両替機からかっさらった小銭を持ったまま居酒屋に他の客まで連れて行っておごっている。

 全部意味不明だよな。それを「どんな会社なん?」とひそひそ話されて「コンピュータの会社らしい」となって世間のコンピュータに対するイメージが良くなるはずもなく。PDAがスマートフォンとかアイフォンと呼ばれなおしてコンピュータであることすら知らない人がいるくらいになって、またイメージが良くなったとは思いますが。

 まあ、そこらへんまで含めて関西で大迷惑をかけた会社の名前が有限会社フリーライフであったわけです。始末書だと思ってお納めください。


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