
大阪のマンションに住んでいた頃に家に聖教新聞の押し売りが来て、ドアを開けるとしつこい勧誘でまあ2000円くらいいっかと思うとそこから次々に人が来るようになった。
はじめは何のことか分からなかったが、家を飛び出して始めた独り暮らし、身寄りもない大阪で友達はいた方が良いと思って受け入れていた。
何もない部屋だった。姉が布団を車で運んでくれた以外、フローリング風の床マットの8畳1Kでキッチンには創価学会の人が引っ越し祝いにいらないものを持ってきてくれた花柄のお皿がふたつと果物ナイフ。男の独り暮らしには郵便受けのデリヘルのチラシの誘惑があり、試しに電話してみるとその時の彼女と瓜二つの女が来た。言葉はほとんどかわさなかった。どっちなんだろう?同一人物だろうか?と思って後日また彼女の方に会おうとしたら音信不通になっていた。
当時の月給は25万。20代で谷六に住んでいるというと、良い方だろう。だが洗濯機を置く場所が無くコインランドリーに通っていた。同じコインランドリーに金髪の女性がいて、話を聞くとウズベキスタンから来ているという。しかし夜中にショットバーで酒を飲むと、最近では風俗の女をそんな遠い所から連れて来るのかとバーテンダーが笑い、ウズベクの女性はただの民族料理屋なのか裏の顔があるのか分からなくなった。
創価でウチに上がり込んでくるのは男子部ということで男ばかりだった。最初は女性も来たが「入ってみると狭いわね」と、そう外から見ると立派なマンションだけど一部屋のマンション暮らしというのは寮生活のようなもので手狭で良いものではなかった。俺はほとんど家にはおらず、喫茶店とかマクドとかカレー屋とかマンガ喫茶で過ごした。ゲーセンにもよく通った。
それで、バーチャファイター4の新バージョンEVOが出たので、旧バージョンを貸してやるからと渡したソフトケースには、ドラクエ7とレイストーム、レイクライシス同梱のザ・ダブルシューティングが入っていた。貸したものはそれまではちゃんと返って来ていたので安心してしまっていたのだ。
それも音信が取れなくなった。人のつながりとか地域の輪を呼びかける創価学会なので、俺はそのトラブルを聖教新聞の配達のおばさんに話して「返してほしいんだ」ということを訴えると「そんなこと言われても私知らないわよ!」「困ったな」と。
さらに家にガタイの良いのとチビの二人出来て、AVを10本くらい持ってきてそれとデジカメとノートパソコンを交換しろと迫って来た。もちろん損な交換であることは分かるが、密室で2対1で断ったらどうなるかという空気感に負けた。
月給こそ25万あったが、暮らしはソファを買ったくらいでなかなか良くはならず、部屋には結局冷蔵庫にコンロと電子レンジとヒーターとソファとケータイくらいで、寝床にして街をフラフラしていた。
やがて、テレビを立てて置きPS2で怒首領蜂大往生を家で毎日するようになった。家でずっと遊ぶ用になると、もうチョット良い部屋の住宅セールスが来るようになってセールスマンが「ボクもファイナルファンタジーテンやってまっす!」とか言うのだが、部屋の隅に縦横90度起こして置いてあるテレビを見て「なんですか?」と。こっちも住宅営業を「なんですか?」と断った。
今度は家でゲームをしていると音がうるさいと近隣からあったのか、家賃が値上がりして追い出されムードとなった。それでも月給25万なので払えるからそのままで、そうしていると空き部屋がひとつ入ってDJか何かがダンスパーティを夜な夜なして睡眠不足になったのだが、俺んちは傍から見るとああなのだろうか、と思うにとどめた。
やがて家にADSLを引いてもらうよう通信営業をマンション管理に入れてもらって、ブロードバンドの時代が来る。こうなるとパソコンが要らないものだからと持っていくものはもういない。いや1台持って行ったので満足したからかもだが、パソコンというとブロードバンドで楽しく遊べるものという風評が広まったのもあるだろう。数えると取られたのも含めると4台目くらいのマイコンである。安いのにした。
しかし、本業の派遣社員の仕事が切れ始めたのもその頃だった。ブロードバンド時代の幕開けでパソコンというとインターネットで、VC++でスタンドアロンのシステムを外注するソフトハウスがほとんど無くなってしまったのもあるし、仕事を取って来るはずの営業さんもネットゲーとかで遊ぶように変わっていったのだろう。
それから俺は貧困をさらに味わうのだが、幸い太い実家を親父が守ってくれていた。母も出て行っており、母方も考えたが、父方につくことにした。病院で「お父さんかお母さんどっちが良いですか?」と聞かれた時に「どっちも嫌!」と言ってマンションに戻され、一度だけコンビニ弁当を持ったゲーセン仲間が見舞いに来てくれたが、事実上病気のままマンションの部屋に放置され生きるのに必死だった。
小銭を数えて電車賃として借金を抱えた状態で実家というか、親父の自営業の店のうちらにある住居に長髪の髭もじゃで帰って、俺と分かってもらうのに時間がかかった。
地域の輪って言っても、結局は誘い文句であって、見捨てられたのが現実だ。そしてレイストームをもう一度買って、どうにか連絡をつないで返してもらうというのではなく980円で縁を切る選択を俺は取っていた。
しかし世は移民問題真っただ中。今から考えるとあの頃に創価やウチに出入りしていたのも住居の怪しい移民もいたかもしれないと思う。ゲーセンで知り合い、飲食店で飲食を共にして、中には自炊できるくらい仲の良いというか田舎上がりもいたのだが、ソフトを貸した相手はコインパーキング駐車場の車止め代金請求機などの取り付けの工夫だった。そういえばバーチャ4公式大会準優勝のセガールがエレベータの修理工というプロフィールで、アイツのウルフって事なのだろうなと、似たもんだと思う。
俺んちの近くには同和があって、小学校の時に差別の授業があったが、どちらかというと最近のNHK大河「べらぼう」を見る方が良く分かる。過去からの因果があるのだ。マンションやアパートが増えて外国人も増える中で金持ちは良い家を建てて周囲を泥棒のような目で訝しむ。
格差は厳然とそこに存在している。仲良くなるには身分や境遇が近くないと、羨ましかったり見下されたり、貸し借りの感覚が違い過ぎて難しく、そしてウチも商売なので貸し借りに金利が付いて借用書があって、それで回っているのである。
冷たくなって、利息を取って貸さないと、俺のカネが無くなる。働いて稼ぐと言っても、そうそう都合よく手仕事が転がっているものでも無い。安くハロワの奴隷となるか、ケチで嫌味なカネ貸しになるか。孤独になったところに人の輪や友達というのはかけがえのないというのが甘美な響きであるが、結婚して家庭を持つ夫婦親子親戚以外に他人と関係を持つ中にどれくらいの信用があるだろうか。
利害が絡まない程度に距離を置いた状態で、ネットでゲームについて交信する。子供じみた趣味だが、そこからもう一歩踏み込んでどんな利があると考えると、遊び相手はタダじゃない、高く付いたというような経験を今日の論旨としたい。