現場は小学校

 アガサクリスティ3「アクロイド殺し」8章「ラグラン警部の自信」まで読んだ。

 この本は多分10年以上前に古本屋で100円で買ったんだけど、どうにもまどろっこしくて読みづらく途中で置いていたのが、最近になって少しづつ読み進めている。

 1から読んだらもしかしたら読みやすいのかもしれない。シリーズ物でキャラの設定とか時代背景がわからない古いものだから読みづらいのだが、だんだん慣れてきた。

 探偵をその相棒のワトソンの視点から書かれたアーサーコナンドイルの短編集と違って、作中で探偵が出てくるまでが長かった。だんだん面白くなっては来ている。しかしまだ探偵が解決してくれるというには本の3分の1ほどしか進んでおらず、後が読めない。

 20代はじめ西暦2000年ごろ、電車通勤で往復2時間読書というのでも3年間で20冊読んだくらいなので、1冊に直すと2カ月ほど80時間くらいかけているだろうか。もちろん、電車に乗っている間丸々読んだわけでも無くもう少し短いかもだが「若い時はもっと読めた」と思ってしまうのが、記憶になったものと読み込んでいくもので体感時間が全然違うという話であろう。2カ月かけて読めばいいと思うと読めそうだ。

 そうするとSF界隈の「1000冊読め」というのは8万時間、毎日8時間読んで30年という計算になるが、学校の授業が8時間として義務教育が9年でその3~4倍となると、読書家が人生時間が足りないと嘆くのも分かる気はする。

 マンガになったり映画になったりすると2時間に詰め込まれて、80時間を2時間に詰めるのは無理があると考えたこともあるが、コンピュータで考えると絵や音声になっているほうが情報量が多いので視聴体験としては読書より情報が詰まっているかもしれない。

 それで、人がひとり死ぬだけで警察総動員というアクロイド殺しの時代は恐らく豊かで平和で、戦時中なら兵士がひとり死んでもお墓もまともに作られないってこともある。その意味で政治を学ぶものはその重要度から戦争を必ず学ぶと考えていて、対して探偵小説というのは暇人の読むものだとも言えるかもしれない。

 そうすると、俺はだいたい幸福だが時々小学校での辛いことを思い出す。それは「いじめ」のひとことで片付けられて卒業後はなくなる軽微な問題であり、命に別状はないのだが、反対にその頃を思い出して埋め合わせるくらいしか悩みが無いのかもだ。

 いじめられてはいたが、人気者でもあった。学校が自分サイドと敵サイドに分かれて戦場だった。学級委員長の取り合いだったのだ。委員長は取れなかったが中学受験は勝った。いままで考えたことは無かったが、その後の進路を考えるよりあの時に受験ではなく生徒会長を取る方に勝っていたらどうなっていただろうな、と言いつつ想像はしない。

 2003年頃にドイツ法人で川西能勢に拠点を構える外国資本の製薬会社のパソコンサポートセンターまで転勤させられていた。半分サポセンなので電話受けの綺麗な女性が2人いた。自分の席は別会社だったが、プログラムに専念できるよう雑用をしてくれる事務員の女性が隣にいた。しかし25歳だった俺から見たらおばちゃんだった。

 あのとき俺は森博嗣を読破して何故かシャーロックホームズを読んでいたが、それを見たおばちゃんが「私、中学校くらいでアガサ・クリスティー読みましたよっ!」って言ってた。部屋の入り口には新聞ラックがありTimesだったかな、英字新聞が入っていて、読めないながら毎朝目は通していた。アルカイダのテロがあった頃だと記憶している。

 今から考えると、要件はファイルの吸出しとバックアップから別マシンへのコピーだけなのだが、UI系プログラマーなので「どんな画面ですか?」という爆弾質問をしてから、ツリービューのふたつ並んだファイルをコピーするためのGUIを2カ月ほどかけて作成して、いざ運用となると吸出しやコピーのログが欲しいとかAPIのコピーではあまりに大きなファイルはコピー容量オーバーだとか、問題が出まくった。

 現場ではサポセンのきれいどころがお菓子をポリポリ食べて、パソコンでプログラムなるものをしているのは自分だけだったので自分だけが働かされているという自意識を持っていた。

 それも今考えると、盛大に適当に作ってバグだらけにしたらサポセンフル稼働で何とかなる体制は敷かれていたのだが、頑張った分だけ周りが暇をしたということだろう。

 だいたい、事件が起こってから犯人が分かるまで、探偵がいても何週間もかかるのに警察すら呼ばれていないでなかったことになるのが普通の事件だ。ミステリィが殺人事件を取り扱うのも、それくらいのことを起こさないと警察総動員というワイガヤ感を演出出来ないからだそうだ。

 その意味では江戸川乱歩怪人二十面相は国宝級の美術品の窃盗ということで上手くやっていたなと思うのであった。


🄫1999-2023 id:karmen