ディープラーニング用のマシンが2000万円と聞いて安心した話

パソコン安くなったよな。俺はアップルでもマイクロソフトでもないけどパソコンの値下げのためにだいぶ働いたんだぜ?値下げのために働いたというのは現在から過去を振り返った時のウソになるんだ。本当はめっちゃ儲けたかったの。働いたら働いただけ儲かると思ってたの。

人工知能が人間の仕事を奪う」ってのは全くのウソで機械化された仕事は丸儲けってわけでなく機械分がクッソ高くてリースとか分割払いとかでエンジニアがちょっとずつ稼いでるの。ある日機械ができたから機械に全部やらせて明日からみんなクビってことには世の中なって無くて、たとえば漫画喫茶の店員とかドリンク注いで料理をレンジするだけだけど、給料を料理人と同じくらいもらって突っ立たされてんの。

実はIT業界が忙しいってのも半分はウソで、何十年も前に仕事はシステム化されて機械の番をしてるだけのひとがいっぱいいたの。機械を売り込む時に賢い人が儲けをいっぱい出して、人をたくさん雇ったの。それらの人は待ってりゃよかったの。

俺もたぶん、待ってりゃ給料もらえたの。退屈な仕事だった。何年も前から組まれたプログラムを新しいパソコンに乗っけかえるだけの仕事だったの。

貧乏人は成功の原因をコネだと考えて、中流階級は成功の原因を学歴や資格と考えて、お金持ちは成功の原因を努力と考える。20代の俺にそれは全部揃ってた。けど、失敗だったの。

そもそも、仕事を得たのはコネだったの。コネで椅子に座ってるだけの楽な仕事をもらったの。それがたまたま資格持ってたの。資格があるから雇われたんじゃなくて、座りに来た人がたまたま資格持ってたの。本当は資格を活かしてもっと違う仕事をする職場に就けたのかもだけど、ラクなのが良いって勤める前は思ってたの。

ところが、椅子に座ってみるとやることがないよりはあるほうがラクなの。そしてプログラムを組み込む仕事が出来高制じゃなくて月給制なのに文句があったの。プログラムを組むってのは当時の俺にとって指を動かす時間より考える時間がいちばん長かったの。テキパキと仕事をこなすと新しい注文が来て、それは今まで会社の誰も出来なかった無理強いなんだけど、自分なら出来るってか、世の中の他の場所にはそういうプログラムがあるから出来るようになって退屈な仕事をとっととやめてエキサイティングな仕事がしたいって夢見てたの。んで考える時間にこそ給料が与えられるべきだって思ってたけど、実際にはタイムカードに給料がつくだけだから酒を飲んだ時に部長に向かって「こんなに毎日毎日電車に乗ってる時も風呂に入ってる時もプログラムのことを考え続けてるのにタイムカードを押した時間しか給料がもらえないのはなんでなんだ!」と怒鳴りつけたの。そうするとその時は「なあ、そんなこと当たり前やんけ」となだめるように言われたの。

あの頃から何かがおかしかった。給料を上げろと言ったら言い値で上げてもらえたし、会社のお金でキャバクラとかに連れて行かれてた。春闘とかテレビで見ると一般企業の給料って横並びで上げてもらうとなると全員だからなかなか上げてもらえない難しいもんなんだなって後から知ったけど、当時で充分能力給に近いと思ってたの。

俺がパソコン買った時は50万円くらいだったけど、その前はゲームの開発機で1台100万円くらいって雑誌で読んだことがある。

プログラムを組んだら何らかの仕事が自動になるわけだから、一生懸命仕事を続ければ雪崩式に世の中から無駄な仕事がなくなってみんなが楽になる。そんな理想を胸に抱いてた。

でも、それらは全部間違っていたんだ。例えばスーパーで野菜を買うのにバーコードでレジを売ったからって野菜は安くならない。市場で売り慣れている人が口で値段言ってお釣りをパパっと渡せば、財布からICカードを出してピッとやるのと比べて、確かにちょっと楽になってスーパーの行列が解消される速度は上がってるかもだけど、それ以上にレジの機械の金を儲けからしょっぴいてる分のがデカイよ。

ひょっとしらた、どこかで何かを間違えてるかもしれない。人工知能は人間をラクにするかもしれない。でもそれは人間がしている仕事をそっくりそのまま機械が代替わりするだけではダメなんだ。役所の年金にしたってとっくにコンピュータで管理されてるけど、ATMみたいな機械にして年金もらうんじゃなくて手帳を持って役所に行って手続きしてってさせることで公務員が給料を取っているわけだから、公務員ロボを作ったところで世の中は変わらない。

つまり簡単な話、機械で仕事を代替わりするとラクになるケースと、既得権益で儲かっている人間を蹴っ飛ばして市民に還元する仕事をロボットが両方やってくれないといけない。

んで、今から人工知能が何をしてくれるのかというと、知的生産という名のもとに作られた既得権益をルーティンワーク的なことをしている人間からコンピュータ技師に取り替えようという話であって、それって権益者が変わるだけでいきなり無償にしても誰がどこでどのくらい得するのかさっぱり読み切れないものなんだ。

少なくとも俺の20年はパーソナルコンピュータに色々の専用機の機能を兼ね備えさせるという仕事だったの。それによって多くの人がクリエイティブになれると想像してた人もいるかもだけど、実際には新聞社と見分けがつかないほどのウェブサイトが大量に作られて世の中がデマだらけになっただけ。雑誌SPA!が電話代からの割引で読めるようになった程度の価値でしかないんだ。

つまり、便利なコンピュータが悪人の手に安価に渡るようになって世の中は悪くなったと思ったほうが良いかもしれない。コンピュータなんて買ったけど使いこなせない善良な市民がテレビでいいのに無駄なお金を払って、悪人がデマをバラ撒いたの。

俺だけが悪いわけじゃないってもちろん思ってるけど、俺の努力は徒労に終わっただけでなくとんでもない副作用を産んでしまったのかもしれない。

「お金を儲けることは悪いことだ」と考える人もいるし、商売ってのは儲けすぎないのがコツって考え方もあるとは思うけど、道具屋筋で包丁の店にガラスケースに入れられた日本刀がすごく高額で売られていて、なんかそれを連想した。ああ、危ないものはそれ相応の値段を付けて売らないといけないな、ねずみ小僧のような義賊に正義を感じる部分があれば、悪人相手に商売をして力を弱めるってのは儲けるって考え方より進んでるかも知れないなって考えるようになってきたの。「悪とは何か」みたいな哲学的な話は置いとくよ。刀持って人斬ろうってなら道具を買うのに100万円くらい持ってきなっていう商売人の心意気みたいなもんだと思うのよ。

だから、ディープラーニング用のオフコンが2000万円するのがあるって聞いた時にその値段ならきっと安心だって思ったのよ。


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