TM NETWORKの "LOVE TRAIN"を打ち込んでみた

 TMNのLOVE TRAINをVOCALOID2 EDITORで打ち込んだ。

 先日は「あいみょん」を打ち込もうとして5日かかり完成度の低さに泣いたが、もともと打ち込み系であるTMNで聴きこんでいるのもあって1時間でボーカルのAメロBメロサビを打ち終わった。

 CD1枚3000円でカラオケ1時間1980円くらいの時代に楽曲のMIDIデータの打ち込みが1曲600円から800円くらいだったという裏話を聞いたことがあるが、音楽配信1曲200円の時代に配信会社とプロ契約をして1年間で4000円の損を出した俺はMacGarageBandからDTMに入り、600円て安いなぁと思って聞いていたものだが、歌を打ち終わって1時間経って見て、これでもし600円もらえるなら毎日打ち込みの仕事をさせて欲しいくらいだと思った。

 自分で打ってみたLOVE TRAINはTMNのアルバムで何度もリミックスされているが、その代表格であるベスト盤はAmazonで50円。送料が240円。めったに行かない近所の中古レコード屋に掘り出し物がないか見に行ってみると店頭価格500円。デジタル音楽業界の末端だ。

 ただ、政治的に左が強い時代には「消費が美徳」という右に「モノを買うのは良くない」と非難していた連中だって、食事を作るのにも輸入物の小麦や大豆を使った原料や調味料は買うわけで、アニメ「耳をすませば」にはバイオリン職人になる彼氏が出てくるが、普通は音楽家を目指している人も楽器は買う。ただ、楽器を持っている人がいて音楽を聴かせてもらうのは無料だと思われていた時代でもジャズ喫茶でコーヒーやウイスキーをバカ高い値段で売りつけられているのを知らなかった庶民が今では右も左もなく中古レコードを店内BGMにして漫画喫茶などを経営しようとしてまた売りものはインスタントコーヒーなのである。

 だから音楽の末端価格は自分で曲を選ばなければ無料なのだ。それをわきまえてiPodでDJごっこをしていた若者だった俺はその前には「いらないもの」として扱われるレコード店でガサガサと宝探しをするガキだったわけだが、その後にギターを覚えて今はDTMをしようとしているわけだけれど、既に末端価格が無料でCDでも売り切り500円の時代に音楽をしたいと思ったら、それはスターのような仕事ではなく山下達郎がそうだったように自前で出資する道が浮かぶ。小室哲哉も若い頃バンドのために家の金を持ち出したそうだ。

 生演奏もギターを披露する場を探したら自費でスタジオやライブハウスを借りてやるか、お金がもらえる道としてはカラオケの高級版で高級飲食店でお客さんが酔っ払って歌うのに生オケのバンドを付ける仕事があって、それすら時給1000円でオーディションまである。厳しい。

 先週のまとめとしてはDTMを1週間で1曲仕上げるところまでが主な内容だったが、1日1曲出来るようになる前の日に物置やら通路やらにガサツに置いていた古いレコードを全部整理して部屋のラックや本棚を整理していつでも聴けるように環境を変えた。

 先に書いたように俺はガキの頃に親の金でCD買っていて、町には時計屋のレコード売り場に書店のレコード売り場に中古レコードショップもある。だからDTMをして家が発信源になったところで、それが市販品でないとなると周りのレコード店が動いてプロの音楽家に発注がかかりレコードか配信になって市中で無料でかかって何かが売れると親父の文具店でも何か売れる。音楽だけでは商売にならない。

 子供の頃とさほど変わらないと今になって思うのは、テレビでかかる音楽がレンタルされる時代にへぼいレコードをガサガサと探して買ったその歌手や演奏家が例に漏れずテレビCMに採用されて新譜を出して店に商品として返って来ているのだ。俺の買ったものがほとんどそう。それが「なんでも買う」と左から叩かれた要因だろう。裏方の小細工なのだろうがな。

 テレビの音楽チャートでは圏外だけどCDTVや雑誌などでは「40万枚のスマッシュヒット」などと言われる歌手の音楽は俺の町ではいつも買うのが俺だけで、俺がiPodを持ってDJごっこをするまで他にそんな名前を言う人と会ったことはなかった。

 ただ、音楽雑誌は立ち読みされていて、楽譜ではなく写真が載ってて、お酒が飲める年になってクラブに行くと同じ音楽を聴いていたという女性と出会うのだが、今から考えると後をつけて中国人のホステスに同じ音楽を与えて話を合わせて接客してもらっていたみたいなカラクリだろう。それでも、そんなきっかけでもちょっと流行ると、今では世界中がネットで繋がっている時代、ちょっと好きだったとか後から知ったけど前から持っていたことにしたなど、個々の事情はあれどマイナな音楽でも繋がりが出来る。

 そしてその繋がりはPVという形で視覚化されて、またネット上でのメジャーシーンを形成する。メディアが変わっていっても、音楽の流行り廃りにまつわる出来事それ自体はたいして変化しないものかもしれない。

 打ち込みは趣味でしていて給料は出ないのだが、1時間800円と仮定して、500円で10曲入りのアルバムが買えるなら、その音楽性の良し悪しを脇にやると釣具店で釣竿を買って小魚1匹釣って食う金でスーパーで魚を買うとゆうに1月分は超えるという状態と似ている。

 趣味として、1匹釣れたということが今日の自慢になるかどうかというところ。世の中にはヨットやクルーザーという趣味もある。そんな人に漁師になりたいかと尋ねても、趣味でクルーザーに乗っているだけで魚を売って飯を食おうとは考えていないかもしれない。

 打ち込んだVOCALOID MIDIを音声データにしてドラムの打ち込みと合わせるのは5分とかからなかった。これこそ裏方に隠すべき楽な仕事だろうと思うのだが、ネットではDTMを「楽器のできない人でも出来る」と宣伝しているものが目立つ。

 つまるところアレンジの「まな板」に上がる楽曲をどうするかというところで、道具だけ売って音楽のイロハは売りものにはしないという商売ではあると思うのよな。

 この辺が「あなたもできる」を売りものにする先生稼業とのシェアの取り合いだとも思う。

 「何でも買う」を叩いていた左の人も、何か出来る人が増えると大したことが出来ないで自分の首が締まるという事態が迫ってきているようにも見える。作ろうとすべきか、負けて買ってやるべきかみたいなところで、今後どうするかの方向性を考える交差点に今立っている。

 プログラマとしてネットの配信音源にプロテクトをかけるような企画立案で泥棒を牽制する方向性とも擦り合わせると、俺が素人ながら作ったものでも無料だと重宝されて有頂天になって音源をばら撒いてしまった後悔をした時にハードウェア音源とソフトシンセの商業的な対立も値段の上で巧く機能してるよなと腑に落ちる。

 ソフトウェア技術者ならソフト化すればいいかというと、既存モジュールをハード化することで実物を買わないとコピー出来なくて機材がどんどん欲しくなる商売の分だけ海外の楽器メーカーの方が先を行っている部分もあるなぁと思い直すようになった。前時代的な商売との分の取り合い譲り合いという意味で。

 そうすると俺が若手マインドで「小室食い」を狙って打ち込みを研究するのが利害関係とか政治的意図で右を見ているか左を向いているか、取る側か取られる側か、自分がどんな陣営に属するのか、これから社会とか人にどうなって欲しいのかということは先に決めないと、とりあえず似たようなもの作りますってだけでは商売として何と組むのか誰もが決めかねる。

 作り手が偉かったのは買い手優位の時代へのレジスタンスだったわけで、じゃあ今の時代が売り手有利かというとまだまだ全然そんなことはないって思ってる。


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