月初めの水曜日は資源ごみの日

 鈴木良太さんがファイナルファンタジーXVIの発表で写真になっていた。俺はそれを彼が高校生の時からのゲーマーコミュからSNSで知った。

 ああ「出世したなぁ、羨ましいなぁ」と思う。

 鈴木氏がカプコンで働いていた頃、大阪のゲーマーコミュでうだつの上がらないゲーマー軍団をイタリア服の輸入業で社長になった学生ドルカス山本昌一が皆を食わしており、倉庫整理などの仕事をしてゲームしている中でカプコンに入社した鈴木君は妬ましさから仲間外れを食らっていた。デビルメイクライの続編とか数字知らないけど、担当だったと思う。

 「またクソゲー作ってんのか!」

 焼肉屋でビールのジョッキを片手に山本氏は怒鳴った。

 「ミヤザワ君も何か食う?」

 網から焼肉をつまんで鈴木君は俺の皿に入れた。

 それ以来、20年くらい会ってないだろうか。羨ましい華々しさに気が向くが、売れないゲームクリエイターを彼は20年辛抱したのだ。会社には人がたくさんいて、若い人には野心がある。だが出世できる人間にはその座を巡って競争があり、皆がそうなるわけでもない。早々にあきらめムードに見える若手もいて、昔の鈴木氏は傍からそんな風に見えていたので、移籍と出世はちょっと意外なニュースであった。

 俺は親父の店の新聞の片づけを言い渡され、2カ月ほど続けて嫌になって放っていた。商店街では親父は顔が利いて俺は引きこもり。部屋でパソコンからカタカタと打ち込みの音がしても、最近まで親父が自治会の書類を作る音だとされていた。

 それでも俺は自分の名をソフトに付けてネット販売を展開して、最近たまに俺の名を知る人が探しに来て、苗字の同じ親父に会い、息子である俺は部屋から出ていないが、少なくとも同姓同名であることまで気付いている人がいる。

 マイナンバーカードの申請などで、役所で待っている人とかがいるらしいのだ。俺は親父に申請を頼んで「本人じゃないとダメらしいんだ」親父は息子を自分のものだと思っているので、探しているという人に頼まれて連れて行ったら自分の手柄だ。

 マイナカードの登録はケータイで済ませた。

 資源ごみはだいたい俺が片付けて親父が集積所に持って行って近所の人と話するのだが、今日は親父が片付けたゴミを俺が集積所に持って行った。

 そこにコーラの自販機を回る赤いトラックが通り過ぎた。

 そのトラックの人から見たら俺がゴミを集積所に運んでいる力仕事をしているように見えるのかもしれない。しかし、重いものを運ぶという意味では運ぶのも仕事なのだが、毎日郵便受けに放り込まれる新聞をまとめて積み荷にするのも仕事なのだ。

 裏方がいて、人目に付く仕事が出世に見える。コーラのトラックからは店で片付けている親父は見えずに俺の姿が見えただろう。それが今までは反対だった。

 反対だから、こうしてネットに書き込む暗い趣味が出来たのだ。

 そうして裏方が有名になると、今度は重荷を運んで裏方を誰かが取ろうとするのかもしれない。今はもうそれはどちらでも構わない同じ仕事だと思える。

 鈴木君はファイナルファンタジーXVIのバトルディレクターと写真に添えられていた。どんな仕事か想像もつかない。新しいファイナルファンタジーはどんなバトル画面か、発売に先行して動画が出回ると売り上げが下がるのかもしれないから、開発者が駆り出されて近影が広報されているのかもな。カプコンのファンも引き入れるだろう。

 まあ「実力者は隠される」とかいうのは隠されてしまった人へのひねくれた慰めであって、そして実力者が隠されるからと言って隠れたら実力者だとも限らないわけで。

 誰でも目立つ方が良いかと言うと、社交やパーティが苦手と言う人だっているだろう。俺もショッピングモールとか人の多いところで食事する姿をガラス張りで傍からじろじろ見られるような立場はしんどい時があった。

 だが、こうして部屋でひとりでいると写真に写してもらっているのは羨ましい。

 どうしようもない二律背反というか自己矛盾なのだろう。表裏はあくまで表裏だ。


🄫1999-2023 id:karmen