世の中で「お勤め」ってやつは出社して椅子に座ること

 仕事の夢中になって毎日の通勤がバカらしくなったことが20代にあったんです。

 朝起きて電車に揺られて会社について一息入れてパソコンを立ち上げて、昼休みはランチを食いに行ったり弁当の時もあったりで、終電までには帰る。

 その頃の俺の持論はプログラムの課題があって、どう組むかの定式が無いところを考えて開発するわけだから、デスクでうんうん唸って考えている、電車の中でも考えている、それに対して手を動かしてプログラムを組んでいる時間だけ働いていると見做されて分からない事を分かるまで考えている時間はサボっているという部長の評価が大嫌いで、電車の中でも寝る前もずっと考えているのだから通勤時間にも給料を出せと言いました。

 理解があったのは課長クラスです。だけど、どういう理解かというと課長クラスになると昔からプログラミング、ソフトウェアで自社開発で出来てきたこと頓挫したことが経験で分かっていて、難しくて分からなくて誰も出来ないから放っておかれる部分に椅子の空きがあって、俺が丁度そこにハマりに来て最初の三カ月で実績が出たから期間延長が来ているだけで、給料は社会のルールでタイムカードを押して会社の椅子に座っている時間で出るのとプログラムの課題が課題解決されたら全国どこでもコピーで行ける。それが協力関係とかオープンならそうだけど、競合他社が開発して企業秘密にされて、買おうとすると高値を吹っ掛けられた時に、人を雇ってどうにか内製に出来ないかというところで自分の仕事になるわけです。

 だからして最近はてか俺が働く前から男女雇用機会均等法とかはあるわけだけど、女子社員が「プログラムの組み方を会社で教えてもらえない」というと男女平等は建前で女の子にやりやすい仕事を教えてやれよみたいなことを言う人がいて俺もそれは理屈では分かるんだけど、自分の身分が保証されている人のポジショントークだと思うんです。

 んでもうひとつ別の話として、競プロなどが流行っていて、就職前に実技をメチャメチャ上げないと就職すらできないって足切りのラインが厳しくなっていて、俺の世代は専門卒でも就職があったけど、いまどきITが人気職種になって、出来ずに唸って考えるのを待つ会社の余裕があるところも減ってきているだろうなと。それは技術共用なんかも進んで、だいたい出来る出来ないという個人の能力に転化して考えるのではなく、やり方として既成の方法のあるなしで考えるのが元々の会社のやり方であって。

 そこまで踏まえて、今自分が実験しているVBでの回転行列のプロジェクトを立ち上げると、これ制作が進んで売上もらえる段になると社長が良いけど、開発段階に戻るのは既存路線がひと段落して何か新しことを始めなきゃってなった時にとりあえず会社に出て椅子に座ってパソコン付けてりゃ給料が出るっての有難すぎて涙出るなと思うよ。

 実はそんなこと初めてでは無くて、初めて勤めたパソコンゲーム会社がゲームってか占いソフトとかの趣味実用が売れ線で、俺も姓名判断とか風水占いとかやって風水がヒットして建設業に中途採用は小さなスパンで見て流れとして運命なんだけど、その元いた会社のトップセールスが競馬予想ソフトで、大体ひとしきりの仕事をした後にもう一度社長に電話して「競馬ソフトもう一回やらせてもらえませんか」と言うと「ちょっと待ってろ」と連絡が途絶えて、自分の町のコンビニに競馬新聞とか競馬雑誌が届くようになったんですよ。不思議よね。その理屈と言うか偶然なのか社長の計らいか分からんけど。それから自宅で麻雀ベーシック「大三元」を作って、この「大三元」の部分の名づけに関しては勤めていたメディックスの社長さんが「付けた方が売れる」とアドバイスして下さったんです。麻雀もやりたかったことのひとつで、誰に頼んでも作ってもらえず、しかし他社製にあって売れるのは分かり切っていて、プログラマにしてみると麻雀ゲームが作れるかというのはかつて登竜門と呼ばれていたと聞きます。でもOSSにしちゃったから誰でも作れるようになって、登竜門としての試験的な意味合いは無くなったけど、誰でも麻雀は打てるわけでそこが無料になるのは社会益だと俺は思っていて、そんでこの時も24号線のドン・キホーテに2980円の麻雀牌のおもちゃが大量に入荷されていたんです。

 まあ次は憧れの3Dゲームをやろうと立方体を回すところを煮詰めているわけですが。この立方体を回すだけの関数の挙動が以前やってだましだましでだまし絵的には座標を打てば良いわけですが、ちゃんと計算したら立方体以外のモデルもクルクル回るよってってことで、世の中にはCAD製品でもゲームツールでも既製品が何件かあるけど、大抵が有料てか全部有料なので、ユニオンシステム在籍時みたいにこれこそ給料もらって研究開発する価値のある仕事だと思っていて、しかし自宅なので虚しく、その先端にいるエヌヴィディアの株価がマイクロソフトを上回ったとニュースになり、そういや初めて株買った時に貯金80万円くらいだった気がするけど証券会社に「いま400万円あったらエヌビディア買えまっせ!絶対上がりまっせ!」「そんなにないですよ」「ところでエヌビディアって何の会社ですの?」「グラフィックボードといってゲームに使う三角関数とかの数学計算をワンチップにする会社ですよ」「GPUですな」「そうそう、グラフィックのGです」「どこが買いますのん」「そりゃソニー富士通でしょ」

 ちょっと前までは「あー、買っておけばよかった」と悔いたけど、今はまあPS2のソフトが売れないで500円くらいで捨て値になっているなと見ていたものが780円とかに値上がって「お、何本か売れたみたいだ」とそれもその前は全部自分のものにしたくて「安く買っておけば」と買いをためらったのを悔いたのだけど、むしろ欲しいものに高い値段が付いていて頑張って買う感じが喜びになることもあるよねって。

 ゲーム会社の社長にも「もう戻れへんで」言われたけど、多分そのあと中途で入ったユニオンシステムにも戻れない。しかもエヌビディアの株も今更買えない。

 だけど世の中のゲームファンはみんなGPUの付いた最新ゲームPCをバンバン買ってんだよ!と思うと腹立ってきた!くそっ!先端開発ではなく後追い開発にまた気付けばなっている。一回でも自分が先端だって思えるように世の中から騙してもらっただけ幸せだったのかもしれんよなと振り返ると、そうそう、そういやPonanza山本にもブロックされているのであった。さびしー。

 ともすると現況は過去に憧れた自宅開発そのものであるわけですが。お金の流れや世間の風評が思っていたのと全然違うのよね。平日の昼間から住宅街のスーパーに弁当買いに行く姿を多くのおばちゃんがどう思って見ているかみたいなところが。親父がメシを近所で買わずに隣町までクルマで買いに行くのも母親が出て行ってメシが無いのを近所のおばちゃんから隠すためだと思っていたけど年食うと案外そういう細かいことが気になるのよな。


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