勝率5割超えと大会優勝と100連勝

田舎町と言うか人口8万人の地方都市で誰もいないゲーセンで遊んでたハンター時代。

あの頃は見せにくる人は他人ではなく全員友達という感じで、俺は東京に憧れていた。東京には無数のゲーセンがあり、どこでも対戦が盛んであった。俺は相手がいなくて困っていた。

一人旅で東京に行った。雑誌にちらっと乗った噂の男梅原大吾を探し求めて行ったのだが、よく来るというゲーセンをのぞいたら後にカプコンのスタッフとなる鈴木君をはじめ、中高生が制服のまま隠れて入れる地下のゲーセンだった。ハンターは五分五分くらいのいい勝負で発売されたばかりのマーヴルスーパーヒーローズでアイアンマンのコンボを披露すると沸き上がった。

ウメハラが283連勝だったか、したと噂の秋葉原のゲーセンも訪れた。ハンターはなくマーヴルを遊ぶと誰も乱入がなくクリアしてしまった。ストIIXの台にはドン・キホーテの手書きポップのごとく大会案内や裏技紹介のカードで装飾され「松井バイソン10連勝」とか書かれていた。

宿に選んだカプセルホテルの近くは行く前は知らなかったが風俗街で、ゲーセンも多いが飲み屋も多い。試しにゲーセンにひとつ入ってストZEROをケンで遊ぶと酔っ払ったサラリーマンが豪鬼で何度も乱入してきて20連勝ほどしてしまった。そして赤い顔のまま台の此方側まで来て絡まれるのかと思ったら「素晴らしい対戦ができました!ありがとうございます!」とか頭を下げて拝んで返っていった。ああいう人が10人位いるなら俺でも200連勝できるかな。

田舎町に帰ってボーッとしていた俺に友達が4人集まって、麻雀をする前にミヤザワくんの本気のビシャモンに皆で何回やれば勝てるかやってみたいと言われ、75連勝でそのグループの中で一番ゲームをしないナンちゃんの弟が最初から最後まで自分と同じビシャモンで入ってきて、ひたすら俺と同じことをやり返し続けようとしてきていた。破れたのはそのビシャモン同キャラだった。100連勝は夢と消えた。

大阪のゲーセンでバイトを始めてから、店に続編のヴァンパイアセイヴァーが入荷された時に俺はバイトが入っていて、開店からシフト終わりまで時々台を覗いて観戦していたのだが、そこで元マルゲ屋常連の奥野さんがビクトルで100連勝した。しかし表示は99連勝のままで「99で止まるんやねぇ」とか皆がざわついて帰ってしまった。

闘劇とかを経て、格闘ゲームが何度か下火になり、満を持して発売されたのはゲーム内容がストIIのほとんどまんまでグラフィックが刷新されたストリートファイターIVで、俺は最初サガットで勝率7割を記録した。20連勝だと勝率9割5分になる計算だが、バーチャIVのプロに対して勝率3割台でくすぶったことも考えると、7割勝てるというのはストIVならいけると夢を見られた。しかしカード制なので7割の勝率を見ても対戦に入ってくるというのは相手も相当に自信のある強敵ばかりで、ついに「RF」や「どぐら」とタイマン状態になり、勝率は4割台まで落とされた。そこで俺はいちどストIVを諦めた。RFとの対戦もずっとサガット同キャラだった。

そのへんの記憶は甲子園の高校野球交流試合を見た後に晩飯食ってストロング系の缶チューハイを飲んだら一気に押し寄せた。死ぬ前の走馬灯ではないが、近いものはあると思う。そして昨晩から腕に湿疹が出て手のひらがまだらだと肝臓が悪いとかいう昔に聞いた話を思い出し、休肝日を作ろうとは思うもののクリアアサヒ1本だけは飲んだ。

交流試合閉幕のあとのニュース番組で女子アナが野球の原稿を読んでいて珍しいなと思った。交流試合のハイライトと阪神の打線に桧山進次郎の解説。もう文句はございません。

 

ネットで何十連勝を自慢していると、見ず知らずの人からの連絡で例えば4人内麻雀なら2割5分、16人のネットゲーなら15人中2人を倒せばお手柄、タイマンなら基本は5分。そこら辺のこと考えてから発言しろよって話をもらって、だけど本当に何十連勝としたんだけど、それを簡単にそのまま文章にしても読み手が信じるものではないのだよなと思ってしばらくその自慢は控えていた。

ゲーセンってルールも知らない人でも100円入れたらすぐに楽しめる簡単なゲームで小銭をひとときの楽しみに変えるもの。そこに登場したストリートファイターIIというマニアックなゲームにハマり倒して研究して、入ってくるお客さんを楽しませるでなく怒らせてしまうこともしばしば、暗いゲーセンは田舎の友達同士のたまり場になり、都会のゲーセンはキャッチャーやビートマニアで明るいステージのような場所になり、格闘ゲームもひととき役目を終えた。

あの頃の台はPS2で復刻コレクションとして商品ラインナップされ、家でそれでひとりで遊ぶとコンピュータ10人抜きでクリア。クリア、クリア、クリア、たまに途中で負けてコンティニュークリア。たまに負けるならそれが無くなるまで練習するだけでも充分ではないかとも思える。しかし世の中のゲーム以外のエンタメも楽しくなっている時流の変化に取り残された復刻版のゲームはどこかつまらなく、ひととき懐かしさから夢中になるのだがふと飽きる。

 

それでも、どこかで覚えているんだ。ゲーセンの小さい台を10人位のお客さんで囲んで、そこにどっしり構えてスリリングなゲームをして、連勝の数字が上がっていくたびに周りの空気があったまっていく感覚。夏場でもエアコンの効いているゲーセンが熱気を帯びるっていうね。

それなら最初から炎天下の下で行われる高校野球を観戦すればいいじゃないって思ったのが今年の夏のことなんだよね。何年か前から興味を持って観戦するようになったんだけど、くり返し見ることで分かってきて楽しくなる部分と繰り返しに飽きる部分とテレビが大きくなって臨場感が上がったことなど、様々の要因でまた違って見えるというか。

それが5点取るのでもものすごい歓声なわけで、いくら俺が強いと自分で思っていても10-1くらいの試合を何十連勝と見せたというとそれは実際に見てみないと何とも言えないってか文章だけで信じられないって人の気持ちも分かるようになった。それが分かるから、余計にもっと臨場感を持って当時のゲーセンの様子を伝えたいみたいのが作品としてのウメハラマンガという形に落ち着いたのだろうな。しかし不思議なもので実話でもマンガになると脚色を帯びた作り話のようにふいに消えてゆくもので。

周りの人が取り柄もないひとりの人間のこだわりに同情して負けてくれていただけだったかもしれないなという思いが芽生えて、それが自信喪失のような不安になっていく心の動きと、周りのやさしさに包まれていたんだという安心になっていく心の動きが交錯して、また冷蔵庫から酒を取ってきたくなったりするんだよな。