25歳の時に北米の大会に参加して俺は救われたと思っていた

もう18年も前になるが、今でも鮮明に覚えていることはある。

ゲーム雑誌の関係者に誘われてストリートファイターIII3rdStrikeの大会で北米ネブラスカ州まで遠征した。通訳の方は「東京で遠征者を読み上げる時にミヤザワキョウスケと言っても誰もピンとこなく少しざわついたけど、春麗レミーのカーメンというとおおって言ってる人もいたよ」と伝え聞いていた。俺は東京経由ではなく関空からの出発だった。

格闘ゲーム歴は長いが、知名度は低いと思う。まあ腕前とか実績もその程度だということを今では飲むことが出来るが、当時は不服だった。この文章を書き始めたのも不服があるからだ。俺は子供の頃に発明王エジソンの伝記が気に入って、親に買ってもらったミニ四駆のシャフトをガスコンロで熱する実験をしたら、親父は工学科の出身で「鋼にしようとしとるんか」と分かったが、母親の方は「せっかく買ってあげた玩具で壊すようなイタズラばかりするんです」と近所に話していた。父と母の関係はその件からも読み取れるように、父は母に教えても無駄で分からないと思っているし、母親は親父の話が分からないのでママ友など外の人に弱気な顔を見せて相談してしまい、弱みを握られる。

プラモにゲーム機なんでも買ってもらえると言われた俺だが、PCエンジンとかパソコンとかファミリーベーシックは買ってもらえず塾通いの小6を経て中学受験で難関校に受かるが、そこから悪友に目をつけられゲーセン通いで特に対戦型のストリートファイターIIに熱中してしまう。ゲーセンのゲームなんて移植版で家でゲーム機ですればいいが、当時は中学生で高校の先輩や大人をゲームで負かせることがあまりに痛快でハマってしまった。

しかし本人には自覚はなくとも、周りの人はゲーセンの外からはゲーセンに行く悪い子として見られ、ゲーセンの中では他の客はパソコン通信なども使っているオタクが多く「中学の子がゲームで勝っている」「ではどんな風に」「ダルシムを使ってヨガファイヤーで相手がジャンプしたら中キック」という感じだったろう。台を囲って動作をスパイしてどこかに連絡していたのだと思う。

特に流行っていたゲームセンターは寝屋川ABCで大阪電気通信大学の近所であることは後から知った。寝屋川の攻略は最新であるとされていた。今考えるとパソ通で日本中かあるいは関西一円の情報が集まっていたのだろう。ストIIXでの豪鬼の隠しコマンドもパソ通で広まった。

何故か努力して試行錯誤を繰り返してもゲーセンで囲まれて騒がれてということはあっても雑誌社の大会などで記事として有名になることがなかった。明らかに今まで誌面でも店でも見たことがないような技を見つけた時に、ゲーセンで見せると2ヶ月後には別の名前で雑誌記事になる。

そんなことに不思議を感じていた俺に北米遠征の指名がかかったときは神は見ているとキリスト教を信じそうになったほど嬉しかった。

しかし、その遠征の取扱は誌面では非常に小さく、再度トーナメントの優勝などは国内では報じられなかった。昇竜拳ドットコムには写真無しで名前だけ載った。

まあ、神は見ているというよりはゲーセンで囲ってパソ通でどこかに情報を送るみたいなことをアメリカでもしてやられたと言ったほうが今から考えて適切だろう。ネブラスカ州という田舎の州で地方のチャンピオンにして喜ばせてビデオを回し、海岸沿いの市街地の大会ではヒロイックな演出で誰かのプレイを優勝動画にするというようなイタズラだ。

俺のことは今でも誰も知らないが、ジャスティン・ウォンなら誰でも知っているだろう。

今ではそのことが分かっていて、俺も情報の取扱には気を使いゲームに関して首都圏より関西圏のほうが情報を持っていることもある。

だがどうだろう。ゲーム攻略という情報のジャンル自体が切り捨てられただけで、首都圏とか米国がもっと有益な別のジャンルの新しい手法を持っていて、それで関西圏はゲームで勝って喜んでいる間にまた何か知らないアドバンテージを取られているだけかもしれない。

あるいはそれが首都圏や米国ではなく中国に行っているのかも知れないが、技術者というネクラな仕事をしていると、実利的よりも知名度とか技術だけでは手に入れられない無形のものが欲しくなり、そのために陰惨に誰かを貶めることまで考えてしまい、そうして手に入れたものは本人が思っているほど華々しいものでもないということになるのかもな。

みんながケータイでSNSを楽しんで、スイーツ食って写真撮ってはしゃぎまわって遊んでいる時に、外国語の意味不明なチャットの内容を中国人が盗み見たところで、その境遇の快楽と惨めさの隙間は埋まらないだろう。

まあ、その意味で俺はゲーセンではしゃいで遊んでいたわけで、プレイ内容が誰か他の人の名義で有名になっても、そんな世界は知らずに放っておけば良かったのかもしれないが。