クルマに乗りたい

 19歳で免許を取り、親父のシビックをもらって乗った時。

 あの時ほど「大人になったんだな」という感覚を得たときはない。しかし、そのシビックを廃車にする前にドアをこする軽い事故をして、心配した親父がスポーツカー的なものではなく、図体のデカい三菱のチャレンジャーを買って「これなら多少ぶつかっても大丈夫だろう」と過保護にクルマを買い替えてくれた。

 とはいえ、ゲーマーの俺は夜中に西大寺のゲーセンまで乗るくらいで、そのデカさが何だか恥ずかしく、クルマに自分が負けて大人感は失っていた。

 専門学校に通って、パソコンに夢中になってから、クルマへの興味がどんどん薄らいだ。むしろ子供の頃のファミコンで「ゲームプログラマーになる」という夢の続きを追った。気づいたらスーツを着て就職していた。会社までは電車通勤で「普通のサラリーマン」だという自意識だったが、コンピュータの勉強と言ってもソフトのみで、ずっとフワフワしていた。

 それからかれこれ20年、いまPS2グランツーリスモというゲームでまたシビックに乗っている。ゲームというかドライブシミュレータで、国内A級ライセンスを取ってそこまでで置いていたゲームを続きから始めた。

 クルマのレースにはキャラ差というかマシン性能差があるが、F-1でもクルマの性能にルールがあり、それと同じようにメーカーのサーキットでシビックならシビックだけの「シビックレース」というものがあるらしい。

 それに参加するとコンピュータの車がやたら速く、子供の玩具としての「勝てるゲーム」と違って6台のレースでドンケを取る苦しいレースだった。レースゲームは自信あるのにな、と思ったが、それはゲーム的な話をするとコースを覚えてレースをして、ちょっとタイムが悪いとやり直しということを延々と繰り返すのが古いゲーム機の方がロード時間が短くとても短いサイクルでリトライ出来るからだと思う。

 しかしまあ、6位でも賞金5万円ゲーム内で出るので、200万円とか300万円の車でも40から60レースくらいドンケを取れば買えるわけだ。

 レースでお金がもらえるってどんなだろう、とネットで本物の国内A級ライセンスについて見てみた。

 ゲームに戻り、高い車を買うのではなく改造で速くできないかいじりだす。

 気づいたらいつもの就寝時刻を超えてサーキットを走って4位まで詰めた。だがまあ、ゲームプログラマーも人の子で負け続けると獲得ポイントが下がる代わりに遅い車が増えるようになっている。元の6台からすると5位のタイムしか出ていないのだが4位相当になる。それでも、まあコンマ数秒の差なので4位は4位なのだが(一度でも競るとブロッキングもあるから前の車のタイムにも影響する)

 何かこうまたシビックに乗っていることに運命的なモノを感じていたが、ソニーのGT4に様々の車種が収録されていて、速い車を買うのではなく懐かしいシビックを自分から選んだのだろうとは思う。

 お医者さんから服薬しながらクルマは危ないと言われているけど、そうすりゃ酒だってタバコだってすすめられるものでも無いし、親父が元気なうちはいいが、いずれはそれでも乗らないと生活が不便すぎるとも思っている。

 それまで、またゲームで練習しよう。病気が治ったらまたクルマに乗りたいなと思うと気持ちも前向きになってきたように思う。


🄫1999-2023 id:karmen