「圧力鍋でカレー」のパラドックス

 高校生の頃にとあるお婆ちゃんから「圧力鍋でカレーを炊いたら美味しいのよ」と聞いた。

 帰って母に伝えると「まあ、やってみようね」と母は圧力鍋にカレーの材料を入れた。

 すると父が「コラ、圧力鍋でカレーなんて炊いたら破裂するぞ!ルーは後から入れろ」と言って、母はルーを後から入れた。カレーはお肉が柔らかくて美味しかった。

 そんな話を30代の頃に昔話としてゲーム仲間の先輩に話すと「圧力鍋でカレーを炊いてはいけないというのは常識だよ。ルーが排気口に詰まってフタが破裂して大やけどをするんだ」と話していた。その話を聞いている時に俺も相手もビールをジョッキで飲んで酔っ払っていたが、酔いながら俺は「じゃあ、あのお婆ちゃんは若いうちのママが憎くてやけどを負わそうとして意地悪にカレーの話をしたのかな、なんてひどい。世の中には意地の悪い人がいるものだ」ということで飲み会は終了した。

 しかし、今日ふと圧力鍋にカレールーを入れて炊いて蒸気口にルーが詰まったとして、フタを破裂させる圧力があるなら、蒸気口に詰まったルーを噴き出させるに充分な圧力だろうから、あの時は父も知らなかっただけでルーを入れて炊いても大丈夫だったのではないかと考えた。

 そうしてググってみると、圧力鍋でカレーを炊くと短時間で美味しく仕上がるというレシピが何軒かヒットした。恐らくプロのレストランのレシピなのだろう。

 そうすると、父も先輩も料理をしない男として何故か常識として圧力鍋でカレーを炊いたら破裂するという話を知って女を叱っているわけだが、噂の真相はプロの料理人が専業主婦にカレーのおいしい炊き方を秘密にするためのデマで、物知りのようで知らないわけである。

 だがまあ、レストランとか圧力鍋を使わずとも、今時のレトルトのカレーはプロのレシピで、それでも食べ切らずに食品棚にストックが沢山ある。料理人も廃業にはなっていないし、ハウス食品のルーはよく儲かっているだろう。ただ、高校の時に食べたお肉の柔らかいカレーに先にルーを入れていたら、お肉にカレーの味がしっかり染みて美味しいのだろうなと思った。

 まあ、事がカレーに関しては圧力鍋レシピが解禁されて世の中少し良くなったかもだが、検索ワードの加減によってはQ&Aなどで破裂派の回答が返ってくるかもしれないし、このフェイクニュースまみれのネット社会で実はこの俺のブログがデマで、本当に圧力鍋は破裂するのかもしれない。

 怖い実験をしてみて、破裂して大やけどをするかおいしいカレーを食べられるか。

 本当に意地の悪いのはあの婆さんでもなく、父や先輩でも無いのかも知れないよな。ただ、世の中の意地悪には何らかの裏があって、かいくぐるとせめて美味しいものくらいは当たるように出来ていて欲しいと思う。

 これは格闘ゲームの話ではないようだが、2001年ごろにウメハラがXケンでゲーセンの試合で大阪のリュウに時々いい勝負をするもケンの負け越しで、さらには最後の試合はリュウのパーフェクト。だがそのビデオは決して有名ではなく、ウメハラ伝説の方が皆のよく知る話。

 そう思うと、今までの人生で幾つか思い当たる結局のところ嘘か本当か見たいな案件はもっとよく考えることで本当に実利があるのは最後はお金のやり取りよりも料理な気がした。

 ただ、圧力鍋が破裂しなくてもジャガイモの皮むきひとつ包丁で結構危ない仕事だから。

 ゲームも若い頃は確かに面白かったけど、カツアゲにあって100円取り上げられるみたいな話も100円で何も買えていないのは本当だからね。ただお金を儲けても1000円持って100円のカップラーメン食えば900円お釣りがくるわけだけど、貯金1000万で老衰で死ぬ人が若い頃にもしちょっと食の贅沢を楽しんでいたら。

 そういうのは全部たらればで、初期値敏感性のバタフライ効果で一度も贅沢をしなかったからお金持ちの老人になった人生のうち、たった一度の若い頃の贅沢でその人の人生は何もかも変わっていたかもしれないわけで。

 まあでも、レストランで柔らかく炊いたスジ肉のカレーなどは食ったことはあって旨いと思うけど、どんな部位の肉をどう調理すればどんな味か知らずにお高い焼肉屋で旨い肉を食ったと満足する人だっているわけだし。そして空腹が最高の調味料という言葉もまた正しいと思う。

 圧力鍋を使う前から俺は母の作るカレーが好きだったし、件の婆さんもそこまで意地が悪いとか何とか、思ったことはなかった。ただ、どこかでボタンを掛け違えたことが、今落ち着いて考えると今からでもひとつづつ丁寧に直していけば、金持ちのボンとして裕福に育ったように家を建て直すくらいのことは出来るんじゃないかとも思っている。

 ただし月イチ通院の病人ではある。人生の難易度はそれなりに高いと感じてもいる。


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