見積もり

 ユニオンシステムで勤務2年目(西暦2001年ごろ)俺は画面とマウス入力の担当から建築図面の印刷担当になった。若干23歳。主任も年知らないが30歳くらい。席はユニオンシステムにあるのだが、所属は有限会社フリーライフで孫請けだったので間に株式会社パートナーがあり、どこから来ているかは知らないが同じくパートナーの先輩が多分40代から50代の超ベテラン。部長から「印刷部の見積もりを書け」と言われて課長から「2~3ヶ月くらいあったら出来そうか?」とやんわり言われ「昔に外注して出来ているソースコードがあるんや」先輩「2カ月も印刷に使ったらかなり良いものが出来ますよ」部長「じゃあひとまず2カ月だな、頑張ってくれ」

 結果、残業を100時間超の過密スケジュールで、何なら外注で出来ていたソースは1印刷面目のみ仕様通りに出来てはいるが、30ページくらいだったか、構造計算書の残りのページは計算部からの入力が無いハリボテ状態で結局全部作りこみとなった。

 この頃の給料は25万円あったかなかったか、何せ銀行の通帳を使っておらずカードで全て清算して、実家に記入超過の長ったらしい書類が送り付けられていて、帰った時に親父に「お前何をしてきてん!」とどやされた時には借金が30万円くらい残っていたもので。

 だいたい、お金は見積もりを書いて承認をもらった分だけ降ってわいてくるものだったのだ。それでも義務感はあって、見積もりを書いて承認印をもらったからには納期に仕上げるのがプロだと思っていたのでがむしゃらに頑張ったが、ここまで書いた通り他の外注が請けた仕事を未完成のまま放ってきているのの尻ぬぐいに回っているだけで、同じように中途半端でほっぽらかしても承認印をもらったものは契約が履行されてお金はもらえると知ったのが30代の後半。ただし、そういう前例をたくさん作ると仕事自体がやってこなくなる。

 だからして、年収1200万円の正社員求人なんてものが来ると、そこで一体どんな拷問を受けるのだろうかくらいの恐怖感もある。調べるとベンチャーで13億円の資金調達をしていて従業員数は100人程度。全員1200万円もらっているとすると1年絵使い切る計算だが、俺はそこそこベテランなので若手が少なく見積もられて正比例の三角形の年収だとするとおよそ半額で2年程度で黒字化できればいい事業かなと。

 予算は見積もった分だけ降ってわいてきて、社長が責任を負うからダメもとで給料もらいに行けるとすると上京する価値もあるのかもだが、まだその給料をもらった後の使い道とかも考えておらず、今の暮らしで実家から通えるなら給料7割くらいの求人でも良いかなとかは思っている。

 お金の話をしたときにゲーム仲間の連れと回転寿司を食いながら常識的な話をした。市場で働いていると言っていた連れと話していて会社仕事の素質アリと思ったので中途採用で取ってくれる会社を探してサラリーマンをしてみないかというと、上手いこと自分で見つけてそこそこ給料をもらったという話で回転寿司を食って映画を見に行った。キカイダーのリメイク映画だったので時期はその頃だ。調べるか。2014年だ。

 「なあ俺も会社からカネもらうようになったけど、これ何に使うねん?」

 「ホビージャパンとか好きだったよな」

 「ああ、そうやけど」

 「ガンプラの写真乗ってるやろ。ガンダム好きか」

 「そやなぁ」

 「あの写真に写っている完成形のプラモが5000円くらいで買えるらしいで」

 「えっ!5000円もすんの?ガンプラって680円くらいちゃうんか?」

 「甘い!3000円以上するキットもあるし、680円のプラモでも塗りとかヤスリ掛けとかしたら工賃込みで2000円以上ついたりするんやで!」

 「反対にそれ儲かりそうやなぁ。ひまやし買うよりガンプラ作ろうかな」

 「それやったらカメラやろ。ガンプラ撮るのに1眼レフ買おうぜ!ソニーのアルファや!70万円くらいするぞ!」

 (じゅるり)生唾飲み込む音

 「それええなぁ。カメラってええのんって高くなったりするよな」

 「だろだろ」

 お金の話でモノを買った方が良いという話に同意してもらうまで、俺は色々と説得した。株の話も持ち寄ったが、株は興味ないとのことだった。

 「なんで株なんて買うねん?」

 「まあ、金持ちになると言ったら株は定番だと思って実験というかな」

 「カネってそんなに持ってホンマ何か役に立つんか?」

 「甘い!」

 俺は小銭入れを取り出した。

 「財布持ってるか?」

 普通の財布だ。

 「なんで小銭入れ分けんねん?」

 「親父がそうしているから真似から入ったんやがな、これ見てみぃ」

 二つ折りの財布に札とカード類が入っている。

 「まあ、ええ財布やな」

 「これにも小銭入れ付いとるんやがな、この財布の小銭入れを使うとボタンとか革とかどんどん傷んで先に小銭入れからダメになるんや。そんで小銭入れを分けて札とカードだけの財布にしたら財布が長持ちするんや。小銭入れは100均で買ってるで」

 「そんなことに気ィ使ってたんやな」

 「あとは小銭な。これ俺は札より値打ちあると思ってるんや」

 「どういうこと?」

 「1円玉がアルミニウム1グラムで作るのに2円かかるって知ってるか?」

 「え?え?1円玉が2円?どういうこと?」

 「1000円札千円やおもてるやろ。これはカネとちゃう(小銭を見せて)これはカネや(札を見せて)これは紙やろ」

 「まあ、そやわな」

 「元素の希少性って学校で習わんかったか」

 「どういうこと」

 「大気中には窒素と酸素と二酸化炭素があって海水は水素と酸素と塩化ナトリウムだよな」

 「はあ」

 「地球上の物質の量には限りがあって、化学変化で化合物は変化しても元素それ自体の量は変わらないって考えるんや」

 「ふん」

 「そんで今俺のやっている半導体な。シリコンや水平リーベぼくの船ってなろたやろ」

 「懐かしいな。なーに間があるシップスクラークか」

 「俺はシップすぐ来らぁってなろたがな」

 「なんでそんなえらいなまっとんねん!(笑)」

 「そのシップのシや!シリコンや!」

 「シリコンが高いんやな」

 「思うやろ?違うで!シリコンはそこら辺にある石ころに含まれとんや!」

 「ええっ!」

 「石ころを化学変化させたのが半導体やねん」

 「そんなんぼろ儲からんか?」

 「それがそうでも無いねん」

 「1円玉がアルミニウムやろ。5円玉は真ちゅう。10円玉が銅や。100円玉は鉛やったかな、ちゃんと覚えてへんけど」

 「へー」

 「日本人の持ってるカネって分かるか?」

 「なに?国家予算かなんかか?」

 「近いな。銀行預金を全部合わすと130兆円くらいあって国民ひとり100万円くらい持っている計算になるらしい。それで国家予算も90兆円くらいやろ(当時)」

 「それでな、国民が全部預金おろしたら1万円札が130兆円分130億枚あるかなって考えてん。ましてやそれが1円玉でも」

 「・・・あるわけないな」

 「そうすると、カネは株券の形かも知れへんし、不動産の書状かもしれへん」

 「俺はやっぱりそれでも株は興味ないわ」

 「じゃあケータイ、まあええの使ってるやろ」

 「ああ、これか」

 「シリコンは安いゆうたやろ」

 「ああ、この機械なんぼくらいすんねん?」

 「ケータイには金とリチウムとかも使われてんねん」

 「ああ、分かる電池やな」

 「そや、それと金は少ないけど端子とかや」

 「じゃあ実質その金属の値段ゆうこと?」

 「金属の値段ってどうやって決まると思う?」

 「あっ!それが1円玉2円ちゅうこと?」

 「ビンゴ!」

 「ほんで俺今な、スーファミのカセット集めてんねん」

 「まあ、何となくは分かるがな」

 あれから9年経ったんやなぁ。まだまだ見積もりってやつが難しいんや。今日はゲーセンでキングオブドラゴンズが発売される前にカプコン社の開発陣が会社の経理部にどんな説明をして開発にいくらくらいの見積もりを立てて説得したのだろうとか、そんなことを考えていた。

 戻してもらえるならユニオンシステムに戻って建築の勉強の続きをするのも面白いかもなぁ、とか考えてしまう。

 そこまで深く考えなくても、予算って20代の若手が書いた「ざっくりと」でも100万円くらいまでなら降りてきていた。けど、1200万円ってなったら額が大きいので、それなりにキッチリ計算しないとどんな波及効果があるか分からない。

 もう、それは空恐ろしい額だと思っていたが、この記事をまとめるうちに何かやれそうな気がしてきた。


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