今日のお題は紀貫之から始まる会話
シンガーソングライターに憧れる若い女子のユニットのひとり
なつみ「歌詞を書くのって難しいよね」
俺「そうだね、友達のミクちゃんにも言ったけど和歌の勉強はどう？最近は百人一首とか読んでいるんだけど、紀貫之の古今和歌集も面白そうだと思うんだ」
なつみ「わたしたちってクラシカルってこと？」
俺「うん、借りぐらしのアリエッティだね」
なつみ「はははっ！アリエッティ面白いね」
この会話が俺たちにとっては普通なんだけど、文字で表現されている部分と音で表現されている部分があって、まず歌詞を書くという行為から和歌を詠むという行為までは高校国語の基本になり、そこから古典を学ぶという発想が「古典的」を意味する英語の「クラシカル」になり、ここで俺がつまらない冗談のアナグラムで「くらしかる」を「暮らし借る」として、幼稚園みたいにパッと思いついた宮崎駿のスタジオジブリ作品「借りぐらしのアリエッティ」を話題にポンと出したら、冗談が通じてなつみが笑ったということ。なつみの笑い声が聞けて俺は嬉しかったので、そこで会話はひと段落した。
本当に子供じみた会話だと思うけど、この会話に入るためにはまずシンガーソングライターに憧れて楽器を弾きながら歌う仲間という縁が初歩にあって、歌詞を書くために何を勉強すればよいかという悩みに共感して、高校とは言え流行り歌から古典を学ぼうというちょっとした学識があって、英語の教養でクラシカルという話題で苦手な古文から英語に持って行こうとして、機転を利かしてアニメの話題で笑いを誘ったらちゃんと分かって笑ってくれたところで、双方で試し合いをしながら話の軸をちょっとずらしながら、俺はなつみが笑ってくれたから良かったが、なつみは俺の英語力を試したのか、反対に古典になると苦手だから英語にずらして欲しかったのかまでは分からないし、なつみも器用な女なので笑って見せたら俺が安心すると思ったのか、冗談が通じたのか本当のところは実は分からない。
それで俺はまた高校の同級生のヨシイ君を思い出した。現代文のテストで俺は良い点をもらっていたが、ヨシイ君は悪い点だった。ヨシイ君はしかし古文の先生には「よく勉強しているね」と褒められていて、俺はそれを嫉んでいたのでヨシイ君の現代文の成績は「人の不幸は蜜の味」みたいな部分があった。だが、ヨシイ君は俺の現代文の解答に対して「この時の作者の考えを述べよ」みたいな問題が何故分かるんだ？と問うた。俺は「先生が丸をくれそうに考えて書くんだ」と答えた。
確かに、よく考えてみるとヨシイ君は理系で薬学部志望、化学の成績が良い。そうして物質の化学的性質を理解しようとして実験に熱心なものからしたら、紙に字が書いてあるだけで考えていることを書き当てよなんて出題は意味不明にもほどがあるのだ。
そんなヨシイ君は俺となつみの何気ない会話と笑い合いに話の輪に入れないことでよくやきもきしていて、後から同じことをしていた。今日の事を考えると、古今和歌集の本を買って読み、借りぐらしのアリエッティのビデオを借りて見るというようなことをする。けど、会話のはずみで音の交換のなかでそのふたつがどのように結びついているか分からず、古今和歌集と借りぐらしのアリエッティはどう関係しているのか、分からないまま、古典の先生から見たらふたつの作品について学んだわけで高評価なのだ。
ヨシイ君が古今和歌集と借りぐらしのアリエッティを見ている間に、俺となつみはそれぞれ別の邦楽の歌を聞いて音楽の勉強している。それで翌日になるとまたわけの分からない会話をしてヨシイ君を怒らせてしまうことを察知したミクが
「みやざわくん、ちょっとストップ」
と言った。何故かと問うと
「わたしも分からないの。みんなふたりのやりとりが分からなくて困ってるよ」
泣きそうに言うのだ。それで俺はこの記事を書くことにした。古今和歌集と借りぐらしのアリエッティは多分見なくとも、俺がちゃんと説明すればふたりの会話の意味は分かるのだが、以前にミクから「ダジャレ？つまんないよ」という俺となつみの掛け合いが笑われたというか怒られたのだが、これらは後からゆっくりと説明されるとつまらないものだが、テンポよく互いに会話としてやりとりしている俺達にはスリリングで面白いコミュニケーションなのだ。
だから俺たちはふたりとも幼稚な歌うたいであることを分かりながら、互いに何が面白かったのか周りに悟られないように会話を飛ばして冗談にしていつもなつみが笑う。
こんな恥ずかしい話は無いのだが、ミクもヨシイ君も既に怒りマックスらしい。怒りマックスはちなみに格闘ゲーム用語である。多分なつみは「怒りマックス」でも笑うだろう。俺の言ったことが面白くて笑っているのか、分からないから笑ってごまかすのか、それでもまた俺と話すので、俺は仲が良いとは思っている。
