理想のデッキと決め技カード

 昨晩寝る前に時間があったので、白緑で落ち着いていたデッキに再びボガーダンの槌(Hammer of Boghardan)を入れて練り直すことにした。白緑は良いデッキだったが、自分の気分によって赤くなりたい時もある。理想のデッキをひとつ目指しているようで、ひとつのもので満足できるなら俺はこんなにもモノを持っていないはずである。贅沢なのだ。たくさんモノを持って、分け与えるなら理想的な君主だが、君主足り得るのは配下がいる場合だけだ。

 実際、風呂や洗濯が面倒でそのまま買い物に行くと乞食と間違われることがあるが、今日は朝風呂と洗濯をして、良い身形になるとそれはそれで行きかう街の人は別人だと思っている。俺は奈良を東京と比較して田舎だと思っていたが、真の田舎のような田んぼの脇に牛舎があるようなところではなく、城下町の風情をどこか残しつつスーパーマーケットやマンションに公団などの宅地開発が進んだところで、つまり日本には中途半端な町としてそこかしこにある風景ではあるが、ひとことで示す町や田舎とはちょっと違う地方都市なのであろう。

 その街でいちどMTGが流行ったことがある。俺が大阪で面白そうだと買ってきて、近所のゲームショップも中古ゲームの売買よりカネになるらしいと嗅ぎ付けてきて3店舗出来るくらい流行った。日本語四版にミラージュブロックの頃だ。

 俺は地元でも遊んだが、そもそもカネのない人が金持ちからカネつまり現金を手に入れるために遊び相手となっていただけなので、古都と言えどゲーセンには不良がいたように町にゆかりのない人が行きかうようになっており、盗賊と呼ぶにはまだ幼い子供たちが何処かしらからカードを集めて来て、店に売りつけようとすると「買取はやっていません」と言われるのだが、一部の金持ちがレアカードを現金で買おうとしたので、その人が求めるカードを聞き出して、探してきて、どうにかこうにか交換を繰り返してもらってきて売る。そのお金はコンビニ飯などに消えていくのであった。

 そう思ってもういちど自分のデッキを見ると、これはもうどう考えても自然に未開封のパックを開封して手に入る範囲を完全に逸脱した強すぎるデッキだと思う。

 もちろん、上には上がいるということでドルで買う外国人のプロプレイヤーとかには敵わないかも知れないし、日本にも強い人はいるだろう。

 ただ、街の人には大阪の会場で時々行われた公式大会は別世界で、テレビやラジオで取り扱われず、公家社会と武家社会の名残から忍者がニンニンして「見てこい」と命じられて見てくる範囲で分からないものはこの奈良県大和郡山市には無いのだ。

 なぜ俺がそんなに外の世界に夢中になっているかと言うと、家でドラクエをするよりコンビニ飯を買い与えたお供を連れてデュエルの旅に出た方がリアルで面白かったからだ。それでも良く考えるとお殿様の鷹狩のように、宮様のお通りであるわけで、俺が行くから行き先に世界がその時出来ただけかも知れず、その意味で大会というのは人の集いで場所やモノではないので、後々から話を聞いて追跡しようにも会場跡しか無いわけで、こういった話を裏取りするというか、確かになるのは「ぎゃざ」や「ホビージャパン」などの雑誌コラムだけが証拠になる。物的証拠という意味でだ。哲学観の違いだ。

 俺がカードを集めてどこかに持って行ってまたデュエルが出来るか、相手がいるかと言うと、そもそももうスタンダードなどの明確なフォーマットで千人規模が一堂に会するトーナメントが現象として起こるのか、それはやってみないと分からないが、カードを集めてゲームの世界に没頭して大会の場でだけ会うその他のデュエリストのそれぞれの傾向と対策をしてトップを狙うとなると、まず寂れたおもちゃ屋で遊んでいるカネのない子供を過去に集めた絶版のレアカードで負かし、そしてそれを打ち破る賞金狙いのプレイヤーが出てきたときに、対策可能の範疇を超えていたら、そのデッキを真似てそのデッキで優勝を狙うのであろう。

 明らかに、レアカードの当たりハズレはセットひと箱分くらいを上限としてゲームデザインされているのだが、それが日本という経済大国が版元のアメリカを超えるお金で勝負したために、箱買い対箱買いの異次元バトルが四版ミラージュの頃には行われていた。だが、コンピューターゲームバーチャファイター2」は東京では凄まじいインカムでそのくせ台湾に負けてしまったと雑誌にあったが、大和郡山ではこれっぽっちも流行らず、しかし奈良三条くらいまで行くと流行っていたと聞いたことはある。それで日本人もカネを出してすごいレアカードデッキを作ったが、世界戦で破れ、ようやく優勝したのは随分と後になって海外人気が日本のテレビゲーム機に移ってから、カードとゲーム機の交換のカタチで損をしてのことだったと振り返る。

 それはひとえに決め技カードは強そうでレアカードだけど、自然に買い集めたらコモンカードを大量に持って、その中に何枚かは強いカードがあるから組み合わせて強いというゲームメイクを作り手がしている中、まず遊ばずに大量買いして強そうなカードから順に盛り込んだ支離滅裂なデッキ同士でちょっとおつむがアレな人に流行ったからだろう。

 俺も俺で浪費が行き過ぎて借金が出来てから、どうにか返した頃には多くのカードを手放し、残ったガラクタを繰って遊んでいるうちに、その真価が分かってきたものだ。


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