子供の頃、風邪を引いて治ってから、朝お薬を飲んだ

 小さい頃、風邪を引いてお医者さんに行ってお薬を出してもらった。

 家には風の常備薬もあったので、子供ながらに風邪を引いたらお薬を飲めば治るのだと理解した。それからは、お医者さんに行かずに家にある常備薬を勝手に飲むようになった。

 小学校に行く前に、朝寒かったので風邪薬を飲んだ。親に「どうしたの?」と言われたから思った通りに「予防」と答えた。お母さんは「風邪薬って風邪の予防になるの?」とお父さんに聞いて「そんなもん、なるか!」と怒鳴られた。俺は「なんで?」と聞いた。

 お医者さんは周りにはいなかったので、学校の先生に聞くことになった。先生は「風邪薬は先に飲んでも風邪の予防にはなりませーん!」と大きな声で言った。何故かは誰も答えてくれなかった。

 まあ、それで俺はまだ独身ではあるが、子供に「なぜ風邪薬は風邪を引く前に飲んでも風邪の予防にならないか」ということを尋ねられたらどう答えるか考えてみた。

 風邪薬のうち、抗生物質はウィルスをやっつけるために飲む。だから、風邪を引く前に体の中にウィルスをやっつける抗生物質を飲んでも、体の中にはまだウィルスはいないわけで、予防には恐らくならない。この理屈は「ならない」を前提としている。

 もし、家に風邪の人がいて、いつでもうつるかもしれない時にジャストミートで風邪薬を飲んだら、その時は予防的に機能するかもしれないが、日々生活する中で空気感染のウィルスに対して、明確に症状が出る前に飲んでも一定時間で排出されるわけで、予防するなら無効化を前提に毎食後くらい飲み続けなければならないだろうし、そうするとお薬の副作用で反対にウィルスだけではなく体の中の他の常在菌を殺してしまい、他の病気になるかもしれない。

 もちろん、お医者さんで風邪の時にもらうお薬は抗生物質のほかに熱を下げるお薬や胃腸の調子を整えるお薬もあり、家庭用常備薬は月並みに言って、どんな風邪かはわからないまま効きそうな色々のお薬を混ぜて売られているものだから、健康な人が飲んでも、もちろん病気の人が飲んでも、対症療法的なものなので、健康というものがテレビゲーム「ドラゴンクエスト」の「HP100で薬草を飲んでも効果が無い」というものではなく「毒でないのに毒消し草を飲んだらHPがちょっと下がる」みたいな薬の効き目だと思う。HPは最大値があって、満タンで元気で、毒は受けるとHPが減ってゆくが、熱を下げるお薬というものがあって、熱を下げたら健康かというと36度で健康で37度以上だとお薬がいるが、36度でお薬を飲んでもし35度まで下がったらそれはかえって低体温の病気になる。まあ、市販の風邪薬を飲んだところで平熱から35度になることも無いとは思うけど、何故先に飲んでも予防にならないかのゲーム小学生に対する答えにはなっていると思う。

 ちょうど、世の中コロナワクチンが話題になっていて、予防のためには風邪薬ではなくワクチンという風に知識を持っている人が多いが、テレビ局のアナウンサーがお医者さんや大学教授に話を聞いて、ウィルスの説明に分かりやすいバイキンマンみたいな絵が出されて、それでみんな打つように促されている。

 ドラクエのHPはあまりに単純な数値で、人の健康の定義は様々な角度からほんの数パーセントの増減で自律しているものだと認識している。俺は精神科にかかると精神病らしく、自分でも治したいと思って「健全な精神は健全な肉体に宿る」という言葉を信じて栄養のある食事や適度な運動などを心掛け、肉体になにひとつ異常値のない状態まで血液検査や体重測定を毎月してもらって頑張ったが、それで精神が治ったわけではなく「健全な精神は健全な肉体に宿る」の成句が実はそうではないということをお医者さんが認める形となった。

 それでも、冬が来ると精神病なんてのは健康の範疇で、風邪の方が恐ろしい。そこまで恐れなくとも暖かくして寝ていると治るのだが、精神病の方は治らないわけで、そうすると風邪の方が恐ろしい、というのは風邪を引いているときだけの気持ちなのだ。

 そうすると、健全な精神は案外と病んだ体に宿るのかもしれないなと思った。


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