再現性の自己矛盾と恋愛について

 俺が部屋でギターを弾いていると外まで音がするのか、外でケラケラ笑ってからかう声が部屋まで返ってくる。まあ、自分の部屋でギターの演奏をする(練習をする)というのが中高生ならいざ知らずいい年のオッサンなのが面白いのかもしれんが。

 特に俺は独身なので、近隣の人からすると「とっとと結婚しろ!」みたいな感じで、親父もそこそこに金持ちで俺はボンちゃん、好きな女がいたらカネで見た目のそこそこ似たのとひっつけてそれで良いだろう、みたいな空気感があって。

 そりゃテレビで女優さん見て好きになったとしたらまあ面食いなわけで同じ面構えの女子を手品みたいに用意されたら、若い時だったら騙されたかもしれない。

 そんな難しいことを言うのなら、誰か歌って聴かせたい相手が、つまり思いの人が必ずいるのだろうと外から勘繰ってくるわけだが、残念ながら最初のやりだしの頃は居ただろうが、ギターの稽古をするうちにリズムがどうとか音程がどうとかコードがどうとか他の楽器がどう絡むとか、そういう頭になっちまって、色恋と言うと歌詞はそんな風に書いたら受けるのかとか思う程度で、もう音楽に必死だし、かといって上手くできているかと言うと自分で納得いく仕上がりにならないから欲求不満みたいなものはある。

 どんなものが受けるのかと言いながら、見合いの仲人みたいに「どんな女がいいものか」と問われると、そんなに簡単にどんなって、なかなか想像も付かないもんですよ。

 科学ってやつはすごいもんだと思いますけど、こと自分の結婚に於いてどっかから連れてきた素性の知れない女を化粧して歌のひとつでも読ませればホイ惚れたってアンタ動物実験じゃねぇんだしって思う傍らで、薄暗い夜の街で行きずりの女と酒でも飲んで気を紛らわそうって時は確かにありましたよ。

 けどね、思いの人がいるから会えない寂しさがあって浮気も盛り上がるってもんで、もうコードがどうとかメロディがどうとかなっちゃうと、機械みたいなもんですよ。

 さんざ「弾いて弾いて」と言われて弾いて、情感なんて籠ったもんじゃねぇんです。

 それでも、そうやって練習して出来るようになろうって頑張ってんのが若い時に聴くだけだった音楽の再現みたいなもんだから、おかしな話だよね。再現なんてくそくらえって言ってんのにね。

 学校でも行って無いと、じっくり付き合うなんてことも無い街中の暮らしですよ。


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