「迎え酒」朝からビールを飲んだ

 「素面でやってられっか!」

 朝からビールを飲んだ。YouTubeで暇をつぶしているとやたらビールの広告が入る。スマドリの「飲むならそれでええねん」ウルフルズの替え歌。「糖質ゼロ」の一番搾りの父と娘のCM。両方とも外の明るいうちから飲んでいる映像だった。

 MTGの「時のらせん」あたりか「睡蓮の花」の広告も入っていた。超レアカード「黒い睡蓮(無理やり和訳したが日本語版未収録Black Lotus)」と似たようなカードが220円から500円くらいで売られている。各ショップの在庫状況を見られるWisdomGuildではどの店にも5枚から20枚ほどの在庫があるようだ。30年前には黒い睡蓮もパックから当たった人がいただろうし、トレード相場も3ドルくらいだったと推測している。

 ただし、500円出すなら中古のPS2ソフトで面白そうなものが幾らでもある。定価9800円くらいのPS2ソフトが時代とともに古びたとはいえ、100円と送料で買えるなら得ではないかと思うのだが、俺は既にゲームソフトを数百本持っていて、新しいものを買うというのが蓄財的な趣味ではあるが、裏を返せば買っても買っても飽きて他のが欲しくなっているということにもなる。コレクターという趣味の分からない友人は

 「幾ら何でも買い過ぎやって!もっと1本で遊んだほうが良いって!」

 「お前は安物買いの銭失いや!もっと新しいええのんガンとかってしっかり遊べ!」

 などと言う。それでも欲しいものはある。まあ狙い目を言うと先に買われてプレミア化とか腹立つからさっさと買うべきかもだが、値段の上下は常にある。

 そんなことばかり考えていると何も困ったことなど無いのにやってられない感覚となり、冷蔵庫から缶ビールを1本出して、ダンボール箱から3本冷蔵庫に入れて、その出した1本をグビッと飲んだ。

 しゅわしゅわしゅわー!

 泡がはじけると大抵のことはどうでも良くなった。

 まあ、GGXX#Rを新しい日課にするとか、ギターの練習とか、手帳を週に1ページ埋める自首勉強とか、わりかしどうでも良いことで日々を無理に満たそうとしていた。

 対して新しいゲームを買って遊ぶというのは時を忘れるほど楽しいこともある。

 そういえば先月の半ばあたりか、部屋の針時計を外したのであった。もうチクタク音がするのも機械に支配されているようで嫌になったのだ。

 缶ビールを冷蔵庫から出す前はタバコを吸っていたとはいえ、もし朝からビールを飲んでしまうような人間になったら何かが瓦解してもう元には戻れないのではないかというような恐怖もあった。

 昼までには酔いをさましておかないとなぁ、とか思っている。

 そういえばストIII3rdアメリカ遠征の帰りの飛行機の中で雲より高いところで日が昇るのを見て缶ビールを飲んだ。4ドルくらいしたような記憶もある。8人ほどの遠征だったがそのうち3人の旅費は俺持ちだった。独りでは何も出来ていなかったと思うし、カネを出す係みたいなところがあった。軽蔑的に「アイツは財布みたいな奴で」と罵られて腹が立つこともあったが「アイツらはゲームしか出来ない奴で」とやり返す悪循環でもあった。

 尊敬しあえる関係とは縁遠い。程遠いというべきか。人にカネを貸さなくなり、独りでゲーム機やソフトをいっぱい貯めて遊ぶようになった。人にお金をあげちゃうのが理解できないという昔の彼女も結局俺がカネで買っていたようなもので、ゲーマーとかに貸すなら全部私が欲しいという欲深さが内心にあって、結婚したら全部私のものと言っても遊ばれていて結婚など俺はする気がないと思っていたようだし、俺も値踏みをしていて、結婚しても家事費は幾らくらいで俺は嫁さんを放っておいてパソコンで遊ぶつもりだったかもしれない。

 その結果として、朝から冷蔵庫のビールを出して独りで飲んでいるのである。

 嫁さん、出来たとしたら何にカネ使うんだろうな。ハンドバッグやお洋服の高いのには特有の魅力があるらしいが、それは結局は街での他の女に対する「私の方が良いの持っている」というマウントみたいな要素もあり、そうではなく裁縫とかして自分で洋服好きなら洋服作っちゃう人と一緒になれれば夫婦で儲かりそうだが、夫婦で儲けたら今度こそ本当にそのカネ何に使うねん?という問題は倍化しそうだ。

 ゲーマーさんにしても金持ってゲーセンとかそれパチンコに使うならわかるけど何万円も持ってゲーセンで10連勝とかされたら10回で50円しか取れないわけで、そうして彼らが考えたのが海外旅行で飛行機代に使ってもらうEVOだったみたいなオチが。

 そうするとプレミアソフトをぽちって三日で飽きるというのも悪くはなく。冷蔵庫のビールもひとりで飲むのではなく友達読んで焼肉とかしたら俺も普通の人なのか。


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